国立には特別な思いがある/沢野ひとし
赤い三角屋根駅舎が有名な国鉄(当時)中央線国立駅に、はじめて降りたのは二十歳の頃であった。大学時代の同級生で、好きな女性が国立に住んでいた。今からすでに五十五年も前のことである。その頃の国立は、郊外のひっそりとした町であった。当時、彼女と週に一度は文通をしていた。きちんと文字を書く人なので、こちらも緊張して封筒の宛名を書いていた。
三角屋根駅舎まで自転車で来た彼女と、国立の町をよくデートしていた。一橋大学構内の庭や喫茶店のロージナ茶房で、何時間も取り留めのない話をしてい