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ブルーナさんの絵本『ふしぎなたまご』から学ぶこと/スギ アカツキ

私が幼少時代から愛し続けている絵本の1つに、ディック・ブルーナさんの作品があります。ミッフィーやうさこちゃん(同じうさぎさんのことです)をイメージする方も多いでしょうが、私の中で特別な1冊として大切にしているのが、『ふしぎなたまご』という作品。

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『ふしぎなたまご』 ディック・ブルーナ 文・絵 いしい ももこ 訳(福音館書店)

オランダの原書では、『het ei(たまご)』というシンプルなタイトルですが、日本語訳になると、“ふしぎな”という形容動詞がくっついていて、どんな話かな?と興味を刺激してくれます。

話は、野原に「1個のたまご」が落ちているところからはじまります。そしてそのたまごが誰のものなのか?という問題に対して、めんどり、おんどり、ねこ、いぬのそれぞれが“自分のたまごだ”と主張をしていくのです。その主張はどれも思い込みだけで、いずれも説得力がありません。「気になるモノは、自分のモノにしたい」という生物の欲望が、シンプルに表現されています。

そして、ついにそのたまごが割れて、彼らの血縁には全く関係のない「あひる」が登場するのです。

人生とはそんなものですよね。さてさて、生まれてきたあかんぼあひるは、こう言います。

「ぼく ちょっと おなかが ぺこぺこだ。 だれか たべるもの くれないかなあ」

そして、ここからが心温まる話。
自分には由縁のない赤ちゃんあひるのために、めんどりとおんどりとねこは、あひるが大好きなパンを急いで探しに行き、いぬは外敵からあひるを守るために得意の見張り番に徹するのです。

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子どもはたとえ親がいなくても、立派に大きくなる自主性や可能性を秘めていることを、示してくれているのでしょうか。もしくは、さっきまでエゴばかり押しつけ合っていた生き物同士が、各自の良い部分を発揮し、自然と協力し合えることを教えてくれているのでしょうか。

いずれにしても絵本の中に教訓的なものは一切なく、無邪気な可愛さや優しさが漂います。そして最後の頁に描かれている、むくむく大きく育ったあひるの姿には、明るい未来を想像することができるのです。

どこから来たのかわからないたまごのストーリーは、きっと私達の人生にも通じるものがあることでしょう。私たちは独りぼっちではありませんし、いつだってどこだって、未来は無限大なのです。そして、この絵本は、日々のさりげない日常をどうとらえるか? 人生をどう切り開くのか? という根源的な問題に、健やかに向き合うきっかけを与えてくれています。

大好きなたまごに、学びあり。そんな感謝の気持ちを抱きながら、今日も私は公園で読書を楽しんでいます。

【たまごのはなし】は、ほぼ隔週火曜日に掲載します。

文・写真:スギ アカツキ/食文化研究家。長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを幅広く学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)、女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)が好評発売中。
「みなさん、一番大好きな食べ物ってなんですか? 考えるだけで楽しくなりますが、私は『たまご』という食材に行きつきます。世界中どこでも食べることができ、その国・エリア独特の料理法で調理され、広く愛されている。そしてなにより、たまごのことを考えるだけで、ワクワクうれしい気分になってしまうんです。そこで、連載名を『たまごのはなし』と題し、たまごにまつわる“おいしい・たのしい・うれしい”エピソードを綴っていきたいなと思います」
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