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人生とは、食べたり、書いたり、恋したりするものである

2018年から2年にわたり世界文化社のdelicious webで連載していただいた、沢野ひとしさんのイラスト&エッセイ『食べたり、書いたり、恋したり。』をまとめた電子書籍版が好評発売中です!

沢野さんの連載本編は、世界文化社公式noteでも一部をお読みいただけますが(マガジンはこちら)、ここでは連載にまつわる裏話的なコトをじわっとご紹介していきます。
「連載ことはじめ、のウラ話」では、沢野さんと編集担当マルイとの心温まる交流の軌跡と、連載開始のきっかけが語られましたが、さてその次はどうなった?

鉄は熱いうちに打て!

 沢野さんに「書かせてください」と言われたからには、書いていただかなければ女が廃る。間髪入れずに、ざっくりとだがリクエストを伝えた。
 まずは“食”をテーマにしてほしいこと。
 小説でもエッセイでもレシピでも、スタイルはお任せだが、イラストも描いてほしいこと。
 そして連載ペースはご希望に沿うとして、将来的には本にまとめる前提にしたいこと。

 すると、またすぐに沢野さんからメールが届いた。
「食は大切です。中国の食べ物について書きたい。隔週ペースで勿論イラストも描きます」
「中国というと食品の安全が問われますが、私は今まで不安に感じたことはありません。すでに20カ所以上、中国各地を旅して知り合いも多い。皆とても物静かで、感じがいいです」
「原稿は1000字くらいがちょうどいいかな? 物凄く面白いものを書けると思います。イラストは宅急便で送り、文字原稿はFAXにしたい。マルイさんが直接担当してくれるのも嬉しいです」

 ありがとうございます! こちらこそ嬉しくて涙が出そうです!

「例えば餃子からはじめれば、餃子はいろいろあるから1、2、3と分けてもいい。マントウのこと。天津丼は中国にはないこと。なぜ中国のビールは冷えていないのか? 麻婆豆腐に坦々麺に、地方で食べたセミの唐揚げのこと」
「中国に行って餃子を食べた時、水餃子の美味しさに感激した! ニンニクが別の皿に分けてあった。北部の地方は皮が厚く南部は薄い。粉文化の違い。中国人が日本に来て驚くことは餃子が引っくり返って焦げ目が上になっていること。さらにご飯がつく。定食に驚く」
「中国では餃子の横にジャガイモの湯通しやレンコンがつく。これが上品でうまい。意外にビールはみんな飲んでいない。いろいろ文化の違いを感じる」

 “中国の食”についてだけでも、湯水のようにテーマが溢れ出てくることに面食らいつつ、どれも興味深く、もっと知りたい話ばかり。いいね、いいね! 沢野さんの書くそれらの話を、いちファンとしても絶対に読みたい!
 大枠が見えたところで、沢野さんご指定の、新宿高島屋のパパスカフェで詳細を打ち合わせた。具体的な方向性、連載のペースや原稿料の確認など、細かい部分を詰めると、最後は連載タイトルの相談である。

 私が始めに考えたタイトルは、「食べたり、描いたり、旅したり。」だった。
 生きるうえで食べることは不可欠でも、人生はそれが全てではない。寝たり起きたりはもちろん、仕事をしたり、人に会ったり、旅に出たり。だがたとえば、不発に終わった見合いの席で、相手の顔は忘れても、料理の味は覚えていたりする。そうやって一見、食べることとは無縁のようでも、忘れかけていた人生の一場面が、舌の記憶とともに鮮やかに蘇ることもある。

 そんなことを考えていた私は、これまでに食べたものや、一緒に食べた人、食べることになった背景や食べながら話したことなどを、沢野さんから引き出せれば、テーマは無限大だと考えた。沢野さんの守備範囲の広さを知っているので、中国の話だけでなく、山や音楽、家族や仲間との食にまつわるアレコレがきっと出てくる、と踏んだのだ。
 そして、テーマをあえて絞り込まないことで、のびのびと自由に書いていただけるのではないか、いやぜひ書いていただきたい、と考えていた。

 私の提案したタイトルに沢野さんは、それならば「食べたり、書いたり、恋したり。」にしようと言うと、下を向いて笑った。
 ああ、そうでした! 大変失礼いたしました! “恋多き男”の沢野さん、「恋」の話も必須でしたね。
 こうして連載タイトルも決まり、私は念願の“沢野番”となったのだった。

つづく

【食べたり、書いたり、恋したり。】連載本編はこちらから(一部有料)。

連載をまとめた電子書籍版『食べたり、書いたり、恋したり。』は、Amazonほか主要電子書店にて絶賛発売中!