note_第37回_ハンモックリフレのフトシの嫁の巻

ハンモックリフレのフトシ氏の嫁/新井由木子

 先日皆さまに読んでいただいた『ハンモックリフレ』のフトシ氏について(思いつき書店vol.035参照)、そんなにイケメンなら一度見てみたいという声があちこちで上がっています。がっかりさせてしまうと申し訳ないので、先に申し上げておきますと、フトシ氏は既婚で、鬼嫁と、可愛い娘がおります。
 鬼嫁などと言っていいのかと心配される向きもあるかと思われます。でもハンモックリフレ(嫁)本人が自分のことを、そう言っているのです。トゲの飛び出た金棒でフトシ氏を打ちのめしたり、フトシ氏を庭の八重桜に吊るして鞭で打った後に傷口に粗塩を塗りこんだり、フトシ氏を酢飯で巻いて頭から丸かじりしているところを見たことがないので、本当に鬼嫁なのかは、わかりません。いずれ目撃した際には、こちらでご紹介いたします。

 鬼嫁が妻の立場ではない時には、図式的には『嫁』だけ取れて鬼になるのかもしれませんが、わたしはハンモックリフレ(嫁)を鬼と感じたことは一度もありません。おしゃれでかわいくて、頑張り屋さんで、一緒にいて心地良い人です(本当は鬼なので怖くて言っている訳ではありません)。

 まあ、ちょっと褒めると(褒めたつもりではない場合でも)、すごく調子に乗るところはあります。
「ハンモックリフレ(嫁)は、女らしいと思うよ」
「だよね! わたしボン、キュッ、ボンだもんね!」
「う、うん……(そういう意味じゃないんだけどな)」
 とか。
「グループ分けはジャンケンで決めよう」
「えっ! みんなでわたしを取り合いになっちゃうってこと? キャッ」
「う、うん……(そういう意味じゃないんだけどな)」
 とか。

 あと、ショックを受けたときに、最初から最後までキッチリと早口で復唱するのも特徴です。
「今日ウチの娘、就活面接だったけど、行きたくないところだったらしくて、キャンセルして寝てる」
「えっ! 面接だったけど、行きたくないところだから、キャンセルして、寝てる!?」
 とか。
「洗濯物が乾かなくてパンツが無いから、今日スパッツの下、何もはいてないんだー」
「えっ! 洗濯物が乾かなくて、パンツが無いから、スパッツの下、何もはいてない!?」
 とか。
 ウソだと思ったら、皆さんも、わたしのようにハンモックリフレ(嫁)を驚かせてみてください。

 そんなハンモックリフレ(嫁)がペレカスブックに、草加駅からハンモックリフレまでの地図を作って欲しいと依頼してきました。ハンモックリフレにいらっしゃるお客さまは県外の方も多いので、いらした際には草加でランチなどを楽しんで帰っていただきたいとのこと。早速、ハンモックリフレ(嫁)の気になっているお店へ、地図に載せさせてくださいと、お願いしに出かけることになりました。

 最初の訪問先は忘れもしない、とある老舗。わたしとハンモックリフレ(嫁)は、入ったとたんに叱られてしまいました。今は忙しい時間だし、たとえ他の時間に来たとしても、人手が足りないので話は聞けないとのこと。ごめんなさいとしょんぼりしているのに、お叱りは続き、わたしはこの時間にこちらの話をちょびっとでも聞いてくれたらいいのにと思ったけれど、それは言えませんでした。

 普段はしゃいで元気一杯の人ほど、叱られると萎(しお)れる度合いが大きいものです。ハンモックリフレ(嫁)だけでなく、わたしも正にそのタイプ。どんよりした顔を取りつくろうこともできず、すごすごと、そのお店を後にしました。

 始めたとたんに頓挫しそうな地図作りでしたが、その後は、店主が優しそうなところは2人で訪問し、頑固そうなところ(完全なる先入観)は、フトシ氏にお願いすることになりました。
 ハンモックリフレ(嫁)は、フトシ氏に営業に行って欲しい時には、どんなふうに頼んでいるのでしょう。そういう時も鬼の態度なのでしょうか。

 出来上がった地図のお話は、またいずれ。

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追伸
ハンモックリフレ(嫁)はフトシ氏のことを男前とは、あまり感じないとのことです。

(了)

※世界文化社delicious web連載【まだたべ】を改題しました。

文・イラスト:新井由木子(あらい ゆきこ)/東京都生まれ。イラストレーター・挿絵描き。埼玉県草加市にある書店「ペレカスブック」店主。挿絵や絵本の制作のかたわら書店を営む。著書に『誰かの見たもの 口伝怪奇譚』『おめでとうおばけ』(大日本図書)、『まんじゅうじいさん』(絵本塾出版)ほか。「この世はまだ たべたことのないものだらけ。東京に近い埼玉県の、とあるカフェの中にあるペレカスブックで、挿絵や絵本を作りながら本屋を営んでいます。生まれ故郷の式根島と、草加せんべいの町あたりを行き来しながら、食べること周りのことを書いてゆきます」
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