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高校生たちが抗議活動! 対面授業再開を求めて/ドメニコ・スキラーチェ

コロナ時代の学校と子ども〜イタリアの校長先生が伝える「これから」の教育〜vol.9

イタリアの科学系名門高校「アレッサンドロ・ヴォルタ高校(以下、ヴォルタ高校)」のドメニコ・スキラーチェ校長先生著『「これから」の時代(とき)を生きる君たちへ』の発売から早くも9ヶ月。新型コロナの影響による休校を乗り越えて、いかにして安全に、スムーズに学校を再開させたのか――スキラーチェ校長先生が、リアルな情報や子どもたちへの思いを綴る連載です。
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1月7日、イタリアではクリスマス休暇が明け、学校が再開しました。コロナウイルス感染症対策のため、高校では、対面授業を承認したのは20州のうち3州だけで、他の17州は遠隔教育が続きます(註:イタリアは行政区として20州に分かれており、それぞれに独自の決定権が与えられている)。

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ミラノや他の都市の学生は、昨年の11月から、閉鎖された学校や地方自治体の庁舎前で、寒いにも関わらず屋外で勉強し、象徴的な抗議を行っていました。しかし、クリスマス休暇後に学校に戻れるという希望が失われ、失望感に見舞われたことで、主要な学校を占領するなど、新しい、より過激な抗議につながっています。

ミラノでは高校10校が占領されました。これらは平和的ながら、価値のある、確固たる抗議でした。多くの少女と少年が学校に入り、退去を拒否しました。彼らの多くが、学校で夜を過ごしました。抗議行動は、デモの中心であった我々の学校、ヴォルタ高校でも何度か行われました。これは学校に対する抗議ではありません。学生が社会の他の領域に関わらないよう、あまりにも頻繁に学校閉鎖に頼っている当局に対する抗議なのです。

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1月25日月曜日、コロナウイルスの感染データが一定の改善を見たことで、50%シフトながら、高校の対面授業再開を認める決定がなされました。学生の半数が登校し、残りの半数は遠隔授業を行う、つまり対面授業と遠隔授業を1日おきに行います。 1か月以内に事態が悪化しなければ、大学も部分的に再開されます。

ここ数ヶ月にわたる学生の抗議は、私たち大人や学校にかかわる人々に問いかけました。何よりも彼らは、私たちの国の支配階級に問いかけたのです。彼らの質問は必然であり、また充分に成熟したものであり、我々大人たちはそれに答える義務があります。

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子どもたちは、自分たちの人生において重要な部分が崩壊している、と主張し始めています。それは、“生きた教育”を受ける権利が中断されたことだけではありません。人生において最も大きな財産――学校という社会やコミュニティ、友と一緒に成長する機会、友達と関わりながら関係を築く非常に重要な世代――これらが奪われているということなのです。

この1年、すべての世代が、まるで“ドラマ”の中で暮らしていたと主張するでしょう。しかし子どもたちの抗議は、イタリアという国は、学校を意識的に優先順位の最後に選び、学校は劇的に終わってしまった、と気づかせてくれるのです。

説明するまでもありませんが、コロナウイルス感染の第一波と第二波のいずれも、最初に閉鎖したのは学校です。イタリアは、ウイルス感染拡大の観点から、特別な利点をもたらすことなく、学校を閉鎖した日数が最も多い国です。

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今回の問題は、とくに高校生と大学生に深く関わるものです。中学校以下の子どもたちは登校が保証されています。これは21世紀半ばのイタリアの学校が、親の時間を解放するために子どもたちの世話をする唯一の役割として認識されていることを意味します。

一方で、約300万人の高校生と大学生は「大人」と見なされているため、イタリアの教育・大学・研究大臣が承認しながらも目標を達成できていない遠隔教育プログラムの背後で“迷子”になり、一人で家にいるのです。国に抗議し、ついに内面の怒りを表明した彼らは、国が公共交通機関の輸送システムを変更し、感染追跡の効率的なモデル作りを活性化することを望まない、またはできないがために高校や大学を閉鎖する、そんな社会に未来はない、と私たち大人に言います。

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彼らの抗議は、怒りと痛みの悲鳴です。大人たちが、子どものように耳を塞いで、いやなこと(学生の声)を聞かなければ、支払われる社会的代償(教育の欠如、学生の孤立、心理的な問題の発生)は、非常に大きいでしょう。

このコラムは、毎月2回(中旬/月末)のペースで更新します。コロナからちょうど1年後、2021年3月まで続く予定です。ご期待ください。(編集担当:原田敬子)
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街の中の先生(ノーマスク)

文:Domenico Squillace(ドメニコ・スキラーチェ)/イタリア・ミラノでもっとも権威のある高校のひとつ、「アレッサンドロ・ヴォルタ高校」校長。1956年、南イタリアのカラブリア州・クロトーネ生まれ。25歳のときに大学の哲学科を卒業、ミラノの高校で26年間、文学と歴史の教師を務める。 その後、ロンバルディア州とピエモンテ州で6年間校長を務め、2013年9月から現職。26歳になる娘のジュリアはオランダ在住。趣味は旅行、読書、そして映画館へ行くこと(週に3回も!)。犬が大好き。


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