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スギアカツキ【たまごのはなし】第28回 カレーに「ギョクオチ(玉落ち)」は美味しさを増すキーワード

落としていいのは「たまご」だけ!?

ある日、食通の友人に誘われてカツカレーを食べに行った時のことです。訪れたのは、東京・虎ノ門にある、カツとカレーの店「ジーエス」。

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このお店は、洋食の名店「旬香亭(静岡本店)」のオーナーが2018年にオープンさせたトンカツとカツカレーの専門店。旬香亭といえば、“おいしい揚げ物”が評判ですから、“カツ”と聞いて、迷うことなく足を運びました。

お店に入り、入口の券売機で食券を買おうとしたところ、目に飛び込んできたのが、「玉落ち(卵黄)ギョクオチ」というボタンでした。

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「生卵」や「温泉卵」というボタンは、よそではよく見かけるものの、このような表現は初体験。驚きつつも、ボタンを押してみることにしました。

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食券には、「ギョクオチ」。うん、なかなか良い感じで、ワクワクします。そして運ばれてきたのが、こちら。スリランカ風のさらりとしたスパイシーカレーの中に、卵黄が控えめにもったりと浮遊しています。

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このなんとも抑えめな主張、満月に薄雲がかかったような品の良さが、かえって食欲をそそり、卵黄のまろやかさによって、スパイシーなカレーとサクサクジューシーなカツをテンポよく楽しむことができました。

カレーに「生卵」を落とすというトッピングは、大阪の「自由軒」を筆頭に、関西方面ではよく見かける食習慣。ルーと混ぜながら食べる楽しみを確かなものにしてくれるのが、まぎれもなく「たまご」の存在なのではないでしょうか。

さてさて、食べた後にふと心に残ったのが、「落とす」というワード。一般的には「落ちる」というネガティブイメージがあるせいで、食品等のネーミングにはあまり使われない用語です。でも、「たまごをポンと落とす」ことは、“乙な行為”として、好意的に受け入れられているような気がしませんか? 鶏がたまごを「産み落とす」というシーンが思い浮かぶからでしょうか。そんなことをつらつらと考えながら、たまごを愛する今日この頃です。


文・写真:スギアカツキ/食文化研究家。長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを幅広く学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)、女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)が好評発売中。
「みなさん、一番大好きな食べ物ってなんですか? 考えるだけで楽しくなりますが、私は『たまご』という食材に行きつきます。世界中どこでも食べることができ、その国・エリア独特の料理法で調理され、広く愛されている。そしてなにより、たまごのことを考えるだけで、ワクワクうれしい気分になってしまうんです。そこで、連載名を『たまごのはなし』と題し、たまごにまつわる“おいしい・たのしい・うれしい”エピソードを綴っていきたいなと思います」
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