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おうちじかんのためのドデカめいろを作った/新井由木子

 コロナ禍で、これから先どうなるのか、とっても心配!
 ペレカスブックの経営継続はもちろんのこと、これからの世の中で『本』というものがちゃんと生き残っていけるのか、とか。作家たちは活動を続けられるのか、とか。大好きなあの書店は存続していってくれるのか、とか。本に関わるものとして心配事は尽きません。
 また個人的な心配事としては、老父母の通院が難しくなったり、社会に出たばかりの娘の未来を考えたり。
 のんきが身上のわたしですが、さすがに気分が暗くなり、悪夢を見ては深夜に目覚め、無駄に心配の涙を浮かべる日々を送っておりました。

 そんなある日のことです。
 ペレカスブックの前の道を、お母さんとさんぽしていた顔見知りの女の子。わたしを見つけるやツカツカと真っすぐに歩み寄り、言ったのです。
学校に行けなくて、毎日がつまらなくて、どうにかなりそうなんです
 小学校高学年の彼女の口調は決して悲しげではなく、むしろ明朗でハキハキとしていて、ストレートにその気持ちが伝わってきました。

 わたしは気づき、反省しました。
『わたしのバカバカ! 子どもの本の商売をしているならば、子どもたちのことを一番に心配しなくて、どうするの!』
 早速、お家の中で子どもたちが夢中になって楽しめるものを、ペレカスブックで作れないかと考えました。
 ペレカスブックの得意分野は紙もの作り。様々な印刷に協力してくれる印刷会社さんたちが側にいてくれるのも、頼もしいところです。
 そして思いついたのが『ドデカめいろ』だったのでした。

 相談したのは足立区の江北印刷さん。大きな紙に特色2色を印刷して作る包装紙などの仕事を得意としています。以前親しい方に紹介していただいて以来、いつか一緒にお仕事したいと思っていた印刷会社さんなのです。
 連絡をすると、大嶋社長が快く全面協力を約束してくれ、めいろは四六全判という大きな紙(78.8×109.1cm)で作れることとなりました。
 これくらい大きければ、子どもたちはめいろを床に敷き、寝転がったりしながら楽しめます。遊び終わったら、大きなお絵描きをしても楽しい。とっても良いものが出来上がりそうな予感がしました。

 さて、それからというもの、ひたすらめいろを作る日々が始まりました。
 早く子どもたちに届けたかったこともあり、今までにない濃密な集中を、長時間続けなければなりませんでした。
 厨房から聞こえるカフェスタッフたちの楽しげな声を背に、来る日も来る日も黙々と、ひたすら作業を続けました。
 人と会話をしないでいたせいでしょうか、数日経つと不思議なことに脳内に自分がふたり現れ(プラス思考なわたしと、マイナス思考なわたし)、声のない会話をするようになりました。

 それは、こんな内容でした。

プラスのわたし「四六全判って本当に大きいなあ。全部めいろで埋め尽くすのは、かなり大変だけど頑張るぞ」
マイナスのわたし「ていうか、作っているだけでこんなに大変なんだから、子どもたちだってうんざりするよ」
プラス「ううん、子どもって集中力すごいもの。きっと喜んでくれるはず。信じて作ろう!」
マイナス「ふーん」

プラス「そうだ、もっと楽しくするために絵物語を入れたらどうかしら。そう、ねこのぼうけんが詰まっためいろにしよう。ねこがだんだん仲間を増やしていくことにしよう」
マイナス「おいおい、調子に乗ってねこ8匹に増えてるじゃないか。後半イラストごとに8匹も描くの大変だぞ」
プラス「それぞれ可愛さの違うねこなんだよ。子どもたちを楽しませるためには8匹必要なんだよ」
マイナス「後悔してるだろ」
プラス「少し後悔しているけど!」

プラス「めいろ適当に作ってきたけど、小さな子がやるんだったら分岐先を少なくしたほうがいいよね? 」
マイナス「ここまで作って今、それに気づくのか? それって作り直しってことだよ。1週間分の作業がパアになるんだよ。いいじゃん、このまま出してしまえ」
プラス「でも、やってみたら逆にストレス溜まったっていうのでは、本末転倒だよ。作り直そう!」

 全ての脳内会話においてプラスのわたしが勝利したことは、自分で自分を褒めてあげたい。そんなこんなで作業日数は2週間に及び、最終的にイラストは86枚、ねこは247匹となりました。

 これだけ時間をかけためいろですが、江北印刷さんに持っていくと、素早い職人技であっという間に刷り上がり、『ねこのぼうけん(ドデカ)めいろ』は、めでたく完成したのでした。

 はたして『ねこのぼうけん(ドデカ)めいろ』は、子どもたちに喜んでもらえたでしょうか?
 その結果は写真をご覧ください。

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『ねこのぼうけん(ドデカ)めいろ』です。入稿時「(ドデカ)」を入れ忘れました。

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鉛筆で書きながら進みます。

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「ごはん風呂またいで無事ゴールしたでー! 案外むずかしかった」

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兄弟で。

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寝そべって遊べます。

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ぬりえから楽しむ子も。

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何日もかけて、行き止まりや進む道を色分けした力作も。

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『ねこのぼうけん(ドデカ)めいろ』は初日全国からご注文が入って100個販売。今はボチボチ売れています。

思いつき書店082文中のコピー

(了)

草加の、とあるおしゃれカフェの中の小さな書店「ペレカスブック」店主であり、イラストレーターでもある新井由木子さんが、関わるヒトや出来事と奮闘する日々を綴る連載です。毎週木曜日にお届けしています。

文・イラスト・写真:新井由木子(あらい ゆきこ)/東京都生まれ。イラストレーター・挿絵描き。埼玉県草加市にある書店「ペレカスブック」店主。挿絵や絵本の制作のかたわら書店を営む。著書に『誰かの見たもの 口伝怪奇譚』『おめでとうおばけ』(大日本図書)、『まんじゅうじいさん』(絵本塾出版)ほか。
「この世はまだ たべたことのないものだらけ。東京に近い埼玉県の、とあるカフェの中にあるペレカスブックで、挿絵や絵本を作りながら本屋を営んでいます。生まれ故郷の式根島と、草加せんべいの町あたりを行き来しながら、思いつきで巻き起こるさまざまなことを書いてゆきます」

http://www.pelekasbook.com
Twitter:@pelekasbook

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「思いついたことはやってみる」と言うのは、とあるおしゃれカフェの中の小さな書店「ペレカスブック」店主であり、イラストレーターでもある新井由木子さんです。世界文化社delicious webの人気連載【まだたべ】を改題し、食べるモノに限らず、関わるヒトや出来事と奮闘する日々を綴ります。今日も思いつきで色々なことが巻き起こっていますよ。

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