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子どもが料理好きになる秘訣を発見「キャロットバナナケーキ」/スギアカツキ

子どもと一緒に「キャロットバナナケーキ」を作って、あらためて感じた“料理の楽しさ”

今回は、たまごの話というよりも、「子どもと料理」についてお話させてください。(もちろんたまごは活躍するのですが!)
私の連載やインスタグラムをご覧いただいている方はご存知かもしれませんが、私には5歳になる息子がいます。
ただし、「母親」という看板は掲げながらも、人様に自慢できるような立派な育児ができているわけではありません。
彼が成長していく姿になんとかバタバタと寄り添いながら、「育児=親が子どもを養い、教育すること」ではなく、親が自分の生き方を改める実習のような感覚で、毎日を過ごしています。

そんな中で、夏の終わりに息子がいきなり言い出したことがあります。
それは、「ママ、キャロットバナナケーキが焼きたい! 一緒に作ろう!」というお誘いでした。
最初それを聞いた時は、そんな食べ物、どこで聞いてきたのかな?と不思議に思いましたが、どうやら何かの映像で見たらしく、ニンジンをおいしく食べられる“魔法のケーキ”という期待を抱いているようでした。

これまで息子と一緒に料理をすることは、比較的やってきているほうですが、今回はできる限り自分ひとりで作ってみたいと懇願され、私がレシピを考案することに。
そこで実際に調理をハラハラ見守りながら、私の心に残ったエピソードを交えて、レシピをご紹介させていただこうと思います。

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まずはじめに、ニンジンの皮をむくという作業は、彼にとっては人生初の大チャレンジ。
母の立場としては、指を切ってしまわないかドキドキの瞬間でしたが、ピーラーをしっかり持ち、ニンジンのカーブに集中して、丁寧に、慎重にニンジンと向き合うことができました。
この姿を見て気がついたのが、ニンジンもスポーツも勉強も同じかもしれないということ。
何かに真剣に向き合う姿勢を養うチャンスや環境を与えることが、親の大切な使命であると確信したのでした。

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そして次は、ニンジンをすりおろす作業。
これは今までにもリンゴやダイコンで経験済み。
いくらかの余裕を感じながらも、ニンジンはダイコンに比べると堅くて力が必要であることを覚えたようです。

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そして粉をふるうシーン。
息子はあらゆる調理の工程の中で、最も大好きな作業なんだそうで、粉を無心でふるうのは、忙しいけれど楽しいのだそう。
この粉ふるいを通して、小麦粉、重曹、ベーキングパウダーなど、粉にもいろいろな種類があることを知るようになりました。

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ケーキ生地ができたら、焼型に入れていくのですが、子どもが少しでもワクワクウキウキするような提案をしたいというのが私の性分で、「UFO型だよ! これに入れてちょうだい!」とお願いしたら、ニヤリと一笑。
黙々と成型をしている顔は、真剣そのものでした。
そう、私が子どもの真剣さを見るうえで、注目するのは、「口元」。
集中して何かに取り組む時の口元は、とても凛々しく程よい緊張感が宿っているんですよね。

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そしてついに、これをオーブンで焼いていくのですが、ぐでたま(※たまごをモチーフにしたサンリオのキャラクター)好きの息子は、オーブンのスイッチを押しながら、「いってらっしゃ~い♪(アニメの中で登場するお決まりのセリフ)」を言い放ち、焼き上がりを待つことに。
料理に愛を込める手法は、時代とともにセリフも動作も変わるものですね。

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さあ、焼き上がりました。
息子がここで気付いたのは、「このいい匂いとふわふわ感は最高だよ! 温かいうちに切り分けて食べよう!」という焼き立ての魅力
型からケーキを外して皿に置いたら、あとは自分でやるとのこと。
なんと、ケーキサーバーのみを使って切り分け始めたのです。

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この切り方があまりに豪快で、唖然とする私。
もはや、キレイに切るとか、そういうことは関係がないのかもしれません。もっと大事なことがたくさんあるのだと思います。
料理は上手になることが目的ではありません。
自分自身の心と脳でおいしく食べることをイメージしながら、作ることを心から楽しむことこそが真髄なのだと思います。

切り分けて、早速その一切れを食べた息子がつぶやきました。
「おいしいなあ! これは友達を呼んで熱々を食べさせないと! あー忙しくなるなあ!」

私は仕事柄、子どもたちに料理を指導させていただくことがありますが、楽しく料理をしてもらうために実践している信念があります。
それは、子どもたちに料理を好きになってもらいたければ、自分自身がその姿勢を純粋に見せること
おもてなしの楽しさ、苦労、喜びも同じです。
そんなこんなで、私が朝5時に起きて肉団子のスープを仕込んでいる理由が、息子にはすんなり理解できるようになってきたのだと思います。

最後に、キャロットバナナケーキのレシピをまとめました。
5歳児が頑張って作れる初級レベルですので、皆さんも気軽に作ってみてくださいね!

【ホクホクを味わうキャロットバナナケーキ】の作り方

【材料】
※カップケーキ6個分、15cmケーキ型1個分、もしくは18cmエンゼルケーキ型1個分。

ニンジン 1本
バナナ(完熟) 2本
バター(無塩) 60g
砂糖 80g
卵 1個
薄力粉 150g
ベーキングパウダー 大さじ1/2
シナモン 小さじ1/2
牛乳 60ml
ラム酒(お好みで) 少々
レーズン 大さじ3

【作り方】
(事前に)オーブンを190℃に予熱しておく。

1)ニンジンは皮をむいてすりおろす。バナナはマッシャーもしくはスプーンなどで粗く潰す。

2)常温に戻して柔らかくなったバターをボウルに入れて砂糖を加えてよく混ぜる。さらに溶いた卵を加え、ニンジン、バナナ、レーズン、ラム酒も加えて混ぜる。

3)薄力粉、ベーキングパウダー、シナモンを合わせてふるい、牛乳も加えて粘りが出ないように手早くさっくりと混ぜる。

4)用意した型に生地を流し込み、予熱したオーブンで30分程度焼く。いい匂いがしてきて、表面がこんがり色付けば出来上がり。

この連載では、「たまごが一番大好きな食材」という食文化研究家のスギアカツキさんが、その経験と好奇心を生かしたさまざまなアプローチで「たまご」を掘り下げていきます。【たまごのはなし】は、ほぼ隔週火曜日に掲載します。

文・写真:スギアカツキ/食文化研究家。長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを幅広く学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)、女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)が好評発売中。
「みなさん、一番大好きな食べ物ってなんですか? 考えるだけで楽しくなりますが、私は『たまご』という食材に行きつきます。世界中どこでも食べることができ、その国・エリア独特の料理法で調理され、広く愛されている。そしてなにより、たまごのことを考えるだけで、ワクワクうれしい気分になってしまうんです。そこで、連載名を『たまごのはなし』と題し、たまごにまつわる“おいしい・たのしい・うれしい”エピソードを綴っていきたいなと思います」
Instagram:@sugiakatsuki