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コロナ時代の学校と子ども〜イタリアの校長先生が伝える「これから」の教育〜

9月18日から、イタリアの科学系名門高校「アレッサンドロ・ヴォルタ高校(以下、ヴォルタ高校)」のドメニコ・スキラーチェ校長先生の連載が始まります。それに先立って、この5月に発売された先生の著書『「これから」の時代(とき)を生きる君たちへ』のメイキングストーリーをお伝えしましょう。(連載担当:原田敬子)

vol.0 イタリアの校長先生から届いた珠玉のメッセージが1冊の本になるまでのストーリー

1.この本が生まれたきっかけ

今年の初めは、オリンピックイヤーの幕開けに盛り上がっていた日本。それからまもなく、想像もしていなかった出来事が起こりました。新型コロナウイルスの世界的な蔓延です。3月2日から全国の小中高校が相次いで臨時休校となり、インターネットで広がったデマの影響でトイレットペーパーの買い占め騒ぎも起きます。経験したことのない不自由で、精神的にも不安な毎日が続きました。

このような状況下、私たち出版社にできるのは「生きる力を与える言葉」を編むこと。何かできないだろうか――そう思っていたとき、新聞に掲載されたひとつのメッセージが、私の心を打ちました。
それは、新型コロナウイルスの影響によって、2月24日、突然の休校措置が取られたイタリア北部の都市・ミラノの校長先生が、生徒に向けて書いた“手紙”でした。

当時のイタリアは、世界最悪のペースで感染者が増え、医療崩壊が始まっていました。死者数が100人を超えた3月4日、国内全ての小学校から大学までが休校に。日本でも今後、同じことが起こると察しました。
 あのスキラーチェ校長先生の“手紙”。そこには、ペストが蔓延した17世紀のミラノを舞台にした長編小説『いいなづけ』(原題『I Promessi Sposi』)の冒頭が引用されています。

「アレマン人がペストを連れて、ミラノに侵入してくるのではないか、という保健省の恐れが本当になった。感染が広がり、イタリアの大部分で犠牲者が出た」

史実を踏まえた作家マンゾーニの小説には、人々が冷静な判断を失い、ウイルスを広めた人を追跡したり、専門家を軽んじたり、うわさやデマ、生活必需品の奪い合いなど群集心理に惑わされて人々がパニックになる様子が描かれています。

校長先生はこの本を取り上げ、「現在に生きる私たちは、冷静に、人間性を失わずに行動しましょう」というメッセージを伝えたのです。 生徒たちに休校中の心構えを説いたものですが、この手紙の内容は日本にも通じる普遍的なもので、本にして届けることができたらきっと多くの人々の力になる……そう考えたのです。

中面トリミング

2.日本とイタリア、遠く離れてもつながっている

早速、スキラーチェ先生に英語でメールを送りました。「手紙を読んで感動し、日本の多くの人が勇気づけられました。ぜひ、これを日本で出版させてほしい」と。すると、ほどなく、うれしい返事が届きました。

しかし、先生の“手紙”は長文ではありません。それだけで1冊の本にするのは難しい。そこで企画書に「“追伸”という形で、日本の子どもたちに新しいメッセージをいただきたい」と提案しました。

企画書を送ったのは3月中旬。ヴォルタ高校は休校して1カ月が過ぎようとしていました。イタリアの状況は悪化しています。こんな未曽有の事態に、イタリアの学校はどういう対策を取ったのか。子どもたちはどう過ごし、自宅にいてモチベーションをどう保っているのか……。

イタリアの現状と果敢な取り組みは、日本にとってかけがえのない先進事例になるという一心でした。執筆依頼にあたっては、イタリアにいる校長先生と“対話”を通じて思いを共有したいと考え、テレビ会議を行いました。初めてモニターを通じてお顔を拝見したときの感動は、忘れられません。イタリアと日本、遠く離れていてもまるで実際に会っているかのような錯覚を覚えました。先生の表情を見ながら対話できたことで、物理的な距離感は埋まり、心の距離も近づいた感覚があります。

Skypeの様子

リモートMTGの様子


そして、“出会い”から3日後には、日本の子どもたちに向けて書き起こした原稿が届きます。驚きました。急いで日本語に翻訳すると、あらためてビデオ会議(Zoomを使用)に臨み、原稿に込められた思いを尋ねました。スキラーチェ校長先生はこう言いました。 

「自分たちは“なんでもできる”と過信していました。そんな人間の思いは、小さなウイルスによって打ち砕かれました。私たちは謙虚でなければならなかったのです。制限が多く、家に閉じこもらないといけない大変な状況だと思います。ですが、子どもたちにはこれを有益なお休み時間として活用してほしい。良書を読み、自分について、人生について考える時間にしてほしいのです。これを乗り越えたとき、きっと良い方向に変わっているはずですから」

3.この本で校長先生が一番伝えたかったこと

5月1日に発売した『「これから」の時代を生きる君たちへ』は、ヴォルタ高校のホームページに掲載した“手紙”を前編に配し、日本の若者に向けて執筆したオリジナルの“追伸――日本の生徒への手紙”を後編とする2部構成です。希望の象徴として、“光”を感じさせる美しい写真とともに、スキラーチェ校長の思いを届けました。

新たに寄せられた後編は、悪化の一途をたどるイタリアの状況を赤裸々に描いています。家に閉じこもり、孤立しがちなイタリアの子どもたち……その日常に触れた後、校長先生は日本の子どもたちに向かってこう言うのです。 「この痛みはいつか、皆さんの財産になるでしょう」。
友達と会えない、オンラインでしか勉強できない、外で思いっきり遊べない…。こんなときだからこそ、良書を読み、わが身を見つめる良い機会になる。それによって今後の自分のあり様が変わっていく。校長先生はそう予言するのです。

そして、オンライン授業の先例として、ヴォルタ高校のリモート学習(eラーニング)にも触れています。学校に集まって授業が行えない今、代替ツールの有効性は増しています。ヴォルタ高校では数学、化学、歴史、文学、哲学を中心にZoomを使ったオンライン授業を行い、宿題や課題のやりとりはEメールやWhatsApp(LINEのようなメッセージ交換アプリ)で行います。

リモート学習の特徴は、学校から離れていても授業を受けられる点にありますが、それ以上に、「学校は今もあるよ」「見守っているからね」と生徒にメッセージを送り、「生」の実感を与えることに意味がある…校長先生はそう教えてくれます。
文明の利器も巧みに用いながら、理性的に物事を考え、人を思いやれる子どもを育むことができる。そんなヒントが詰まっているのです。

4.新連載「コロナ時代の学校と子ども」について

9月1日、ヴォルタ高校で半年ぶりに学校が再開しました。これは、ミラノのなかでも最も早い再開です。1200名以上の生徒を抱えるこの学校で、いかにして安全に、スムーズに学校を再開させたのか――9月18日から始まる連載では、実際に学校を運営する立場のスキラーチェ校長先生が、リアルな情報や子どもたちへの思いを綴ります。

コラムは明日9月18日から始まり、毎月2回(中旬/月末予定)のペースで更新します。コロナからちょうど1年後、2021年3月まで続く予定です。ご期待ください。


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コメント (1)
「良書を読み、自分について、人生について考える時間にしてほしい」、その通りだと思います。自粛期間中、「何もすることがないので退屈」という言葉を多く聞きましたが、ゲームなんかで時間をつぶさず、読書や趣味あるいは個人的な勉強にいそしむ時間に費やせただろうに、と思わずにいられませんでした。
このたびはフォローありがとうございます。うれしいです。どうぞよろしくお願いします(何十年も前の就活時、市ヶ谷の御社を訪ねました。記録など残っていないと思いますが)。
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