note_6_黄身の魔法

スギアカツキ【たまごのはなし】第6回 “黄身だけ”に夢中

最近、卵かけご飯には、“卵黄だけ”を落とすのがお気に入りになっています。思い切って卵白をあきらめ(余った卵白は味噌汁などに入れてしまいます)、黄色の宝石だけを白米に乗せて食べるのですが、これが実に美味。一度やってみると、全卵には戻れない魔力があるのです。

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では、なぜ“卵黄だけ”がおいしいのでしょうか? 改めて、たまごの重量比率を見てみると、

卵白     57%
卵黄     32%
殻・卵殻膜  11%
※JA全農たまご株式会社データより

実は、6割近くが「卵白」。その卵白は、ほとんどが水分で、栄養素としては大部分がたんぱく質で構成されます。つまり、それ以外の栄養分はほぼ「卵黄」に含まれているということ。ヒヨコが成長するために必要なたんぱく質、脂質、カルシウム、鉄分などがぎっしり詰まっているのです。

そしてもちろん、色良し、味も良し。艶やかなブリリアントイエローをくずせば、グルタミン酸からくるうま味がとろりと広がります。鶏つくねを卵黄につけて……、海鮮丼の仕上げに……、もずく酢や茹でニラの真ん中に……、考えるだけでワクワク、特別感のあるご馳走がどんどん浮かんできます。

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ちなみに、牛丼や冷麺を彩る“温泉たまご”は、本流の日本料理ではあまり使われることがなく、そこはやっぱり卵黄。野菜に添えられた黄身酢、刺身を濃厚に楽しむ黄身醤油、淡白な魚にコクを与える黄身揚げ。お祝いの席に登場する“黄金○○”と呼ばれる料理も、食べる人を口福に、そして幸福にしてくれます。

栄養に満ちていて、見た目もおいしさも満点の卵黄。「体に良いものはマズイ」という固定概念を軽やかに覆してくれる、最も説得力ある代弁者ではないでしょうか。さあ、今日は何にお月様を落とそうかしら。想像力をかきたてられて、わくわくしてきます。


文・写真:スギアカツキ/食文化研究家。長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを幅広く学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)、女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)が好評発売中。
「みなさん、一番大好きな食べ物ってなんですか? 考えるだけで楽しくなりますが、私は『たまご』という食材に行きつきます。世界中どこでも食べることができ、その国・エリア独特の料理法で調理され、広く愛されている。そしてなにより、たまごのことを考えるだけで、ワクワクうれしい気分になってしまうんです。そこで、連載名を『たまごのはなし』と題し、たまごにまつわる“おいしい・たのしい・うれしい”エピソードを綴っていきたいなと思います」
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