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自分の着たい色を着たら青いキャラが立ちすぎた/新井由木子

 袖を通さずに大切にとっておいたのは、『たかね裁縫所vol.57 昔、オシャレだった参照)』のワンピース。体型を選ばないゆったりした縫製は、夏には風通しが良く、冬には楽に重ね着ができて、オールシーズン楽しめる素敵なワンピースです。
 昨年末に購入してから、なにか良いことがあったらおろそうと思っていたのですが、このご時世、積極的に明るい気分になったほうが良いに決まっています。わたしはとうとう、このワンピースを着ることにしました。

 更にそのワンピースが特別なのは、青い色をしているところにあります。
青は色白で線の細い人にこそ似合う色。いつも汗をかいて赤い顔をした、太っちょのわたしには似合わないはず(かなり自虐的な決めつけです)と思い、今まで着てこなかった色です。しかし半世紀も生きてきたせいでしょうか。似合わなくても好きな色を着たいという気持ちが、止めようもなく湧いてきたのでした。

 リネン生地独特のマットな質感で、冬の晴天のように柔らかく、くすんだ青。憧れの色をまとった気分は想像以上に弾みます。足取りも軽く自身の営むペレカスブックに出勤すると、併設しているカフェ・コンバーションの店主(以下コンバーション)が、目ざとく言いました。
いいじゃん、その色
 褒められて、似合わない訳ではないんだな、と思うとますますうれしい。
 以来、青いワンピースを着てペレカスブックに立ったり、SOSOCAFEのパン運び(vol.75 コロネカフェはじめました参照)をしたり、日々心弾ませ、楽しく過ごしていたのでした。

 ところが一緒に暮らしている娘(社会人)から、なんの反応もないのは不満でした。というか、不思議。なぜ褒めてくれないのかな?
 髪型を変えても気がつかない世のお父さんではあるまいし。おしゃれに敏感な若い娘が、こんなに素敵な青いワンピースを着ているお母さんに、なにも言わないなんておかしい。

 わたしは出勤しようとしている娘に言いました。
「ねえねえ、この新しいワンピース似合うと思わない?」
 アピールするため右足を軸にしてくるりと回ってワンピースの裾をつまみ、左足の爪先で、ちょんと地面をつついて見せました。すると娘は、わたしの頭から足の先までしげしげと見てこう言ったのです。
ドラえもんに似ている

「ドラえもん!」
 わたしは思わず叫びました。はっきり言ってショック。娘は焦ったように
「今どきのドラえもんだよ、今どきの!」
 と言いながらあわてて玄関から消え、後には呆然としたわたしが残りました。

 さて、この顛末をコンバーションと2階のセレクトショップエダハの店主(以下エダハ)に伝えると、そんなことないよ、という言葉はどちらの口からも聞かれず、問題になったのは『今どき』というのはどういう意味かという部分でした。
エダハ「もしかしたら実写ってことかな?」
コンバ「ジャン・レノみたいな?」
エダハ「そういうことなのかなあ。なんだかしっくりこないな」
コンバ「ドラえもんはドラえもんだよね。昔とどこか変わってるのかなあ」
エダハ「そういえばさ、昔のドラえもんって色がビビッドだったけど、最近のってくすんで見えない?」
コンバ「確かにそんな気がする!」
エダハ「色ってことかー!」
コンバ「それかー!」
(娘に確認してみたところ、この推理は正解でした。)

 冬の空の色をまとった素敵なおばさんではなく、ドラえもんだったんだなあ。でも、いいじゃないか、国民的キャラクターだものと、自分を納得させながらSOSOCAFEにパンを届けにいくと、
「新井さんの落とし物」
 とメモ書きされた『鈴』があったので、ものすごくびっくりしました。

追記
『鈴』はわたしのお守りから外れて落ちたものだと、SOSOCAFEのスタッフが推理してくれたようで、確かにわたしのものでした。

思いつき書店079文中

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こちらが、たかね裁縫所の心地よいワンピースです。HPはこちら。
https://www.takanesaihouzyo.com


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明日太さんのパエリアです。


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たかねさんの粉のお菓子です。


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こちらが落ちていた鈴です。お守り本体は見つかっていません。

(了)


草加の、とあるおしゃれカフェの中の小さな書店「ペレカスブック」店主であり、イラストレーターでもある新井由木子さんが、関わるヒトや出来事と奮闘する日々を綴る連載です。毎週木曜日にお届けしています。

文・イラスト・写真:新井由木子(あらい ゆきこ)/東京都生まれ。イラストレーター・挿絵描き。埼玉県草加市にある書店「ペレカスブック」店主。挿絵や絵本の制作のかたわら書店を営む。著書に『誰かの見たもの 口伝怪奇譚』『おめでとうおばけ』(大日本図書)、『まんじゅうじいさん』(絵本塾出版)ほか。
「この世はまだ たべたことのないものだらけ。東京に近い埼玉県の、とあるカフェの中にあるペレカスブックで、挿絵や絵本を作りながら本屋を営んでいます。生まれ故郷の式根島と、草加せんべいの町あたりを行き来しながら、思いつきで巻き起こるさまざまなことを書いてゆきます」

http://www.pelekasbook.com
Twitter:@pelekasbook