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娘のお弁当に付ける“荷札”は、親の圧倒的な片思いなのか?/新井由木子

 下準備をして、誰よりも早く起きて、心を込めて作るお弁当
 それなのに肝心の子どもときたらなかなか起きてこないし、何度も呼んでやっと起きてきたと思ったらブスッと機嫌が悪いし。それだけならまだしも、学校へ行く寸前になってなにかが見つからないと騒いだり、今日提出のプリントにサインをしろと言い出したかと思うと、更に遅刻するから早くしろと急かしたり。
 母としてついつい言いたくなるお小言で、どんどん険悪になる朝の時間です。
 せっかく作ったお弁当なのに、怒りながら手渡すなんて切ないですよね。娘が高校生の頃、そんな朝が頻繁にありました。

 それでも、たまにお弁当につけていた一言メモは好評でした。
 熱々のお茶が入った水筒には飲む時に火傷をしないように、ちょっとふざけて『very hot like me』と貼ってみたり。最近元気がないなと感じたらゆるいキャラを書いて『無理すんなよ』と言わせてみたり。
『母は今夜は飲みたい気分なので、夕食はおつまみのような適当なものになります』などと書いておくのも、手抜きしたい気持ちを伝えるのにちょうどよかった。
 ひとつ屋根の下に暮らしていても毎日は慌ただしくて、ちゃんと言葉を交わすことって意外と少なくなってしまうもの。お弁当につける小さなメモは小さくさりげなくても、親子のコミュニケーションにとって、大切な役割を果たしていたのでした。

 ところで、わたしは小さな書店ペレカスブックを営んでいますが、オリジナルの紙ものの制作もしています。
 ペレカスブックのある埼玉県草加市のご近所、足立区北千住辺りには江戸の時代から紙に関する仕事が多かったことから、今でも紙に関する小さな工場がたくさんあり、協力していただいています。製本所、シール制作工場、大きな包装紙の印刷所、荷札を成形する工場……。

 工場といえば大量の工業製品や実用品を作ることが常ですが、ご縁をいただいた懐の深い工場長さんたちは、とても小さなロットであっても相談に乗ってくれます。
 そんな中で高橋印刷荷札㈱の高橋社長の『工業製品にとどまらない、いつまでも手元に置いてもらえる荷札を作りたい』という言葉を聞いた時に、お弁当につけていたメモを娘が取って置いていたのを思い出し、閃いたのです。そうだ、お弁当につける荷札を作ろう

 協力してくださったのは、高橋印刷荷札さんと㈱東京巧版社さん。
 色々と苦労はありました。一度にたくさんの絵柄を作るには、紙にどのように面付けすればよいか。断裁はどのようにすればよいか。印刷してあるものを荷札に仕立てる難しさなどなど……。
 その結果、出来上がったのがこちらの『母のお小言お弁当荷札』です。手に持った感じも可愛らしく、大満足の出来栄えです。

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こちらが『お弁当荷札』です。

 ところで、最後になって販売用のタグを東京巧版社の村井社長にお願いした時のことです。社長が今までわたしが考えてもいなかった感想を漏らしたのです。
「なんだか、すごい親目線の製品だね。これが、毎日くっついてきたらたまらんねー」
 ガーン!
 衝撃でした。そしてわたしは、しおしおとしぼみつつ思ったのです。
「確かに……」

 思い出してみれば娘から
「ママに言うと学校に怒りにきたりして大ごとになるから内緒にしていた」
などと、学校でのできごとを教えてもらえなかったこともあったわたしです。子どものことが大好きですが、程よい度合いが分からず、愛情の圧をかけていたことも反省されます。
 作っている時は気がつかなかった、意外に深いテーマの『お弁当荷札』なのでした。

 まあ、第一弾は出来上がってしまったことですし、こちらは親心くどいバージョンで店頭に並べようと思います。第二弾は、子どもが受け取っても重たく感じない工夫や、子どもの心についての勉強をしてから取り組みたいです。

 なお、東京巧版社さんは北千住の駅からすぐ。『閉鎖的とも思われがちな印刷の仕事を一般のお客様にもわかりやすく伝えたい』との思いから、新しいスタイルの印刷店を提案しています。オリジナルのTシャツプリントやワークショップなども楽しそう。是非お気軽にお立ち寄りください。

思いつき書店099文中

(了)

草加の、とあるおしゃれカフェの中の小さな書店「ペレカスブック」店主であり、イラストレーターでもある新井由木子さんが、関わるヒトや出来事と奮闘する日々を綴る連載です。毎週木曜日にお届けしています。

文・イラスト:新井由木子(あらい ゆきこ)/東京都生まれ。イラストレーター・挿絵描き。埼玉県草加市にある書店「ペレカスブック」店主。挿絵や絵本の制作のかたわら書店を営む。著書に『誰かの見たもの 口伝怪奇譚』『おめでとうおばけ』(大日本図書)、『まんじゅうじいさん』(絵本塾出版)ほか。
「東京に近い埼玉県の、とあるカフェの中にあるペレカスブックで、挿絵や絵本を作りながら本屋を営んでいます。生まれ故郷の式根島と、草加せんべいの町あたりを行き来しながら、思いつきで巻き起こるさまざまなことを書いてゆきます」
http://www.pelekasbook.com
Twitter:@pelekasbook

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「思いついたことはやってみる」と言うのは、とあるおしゃれカフェの中の小さな書店「ペレカスブック」店主であり、イラストレーターでもある新井由木子さんです。世界文化社delicious webの人気連載【まだたべ】を改題し、食べるモノに限らず、関わるヒトや出来事と奮闘する日々を綴ります。今日も思いつきで色々なことが巻き起こっていますよ。

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