note_第35回_紙一重の人とハンモックリフレ

紙一重の人とハンモックリフレ/新井由木子

『ハンモックリフレ』のフトシ氏は、一見すっきりとした男前です。

 ある日のこと、居間で娘とくつろいでいたときに、俳優の生田斗真さんがテレビに映りました。
「生田斗真とお笑いの徳井義実って紙一重だと思わない?」
 突然娘が言います。そこに常々思っていたことを付け足して答えます。
「わかる! そこにハンモックリフレのフトシ氏も入ってると思わない?」
「わかる!」
 うなずく娘。
 しかしそこから、生田斗真さんと徳井義実さんの間に挟まっているのは一重の紙だとしても、その2人とハンモックリフレのフトシ氏との間に挟まっているのは、紙ではないかもしれないという話になりました。
 もう少し厚めの何か? 関西出身のフトシ氏だと思うと『おたべ』なんか合うかもしれない。いやいや、そういうことでなく、同じ男前でも生田斗真さんと徳井義実さんにあって、フトシ氏に無いもの。あるいはフトシ氏だけにあるのは、何だろう。
 わたしと娘は少しだけ悩んだ後、その問題はさして重要ではないと思い至り、考えるのをやめました。

 先日、珍しく都内での打ち合わせがあり、草加の駅で電車を待っていると、「おーい!」という明るい声と共に、ハンモックリフレのフトシ氏がホームに現れました。偶然ですが、お互いの用事が同じ時間で同じ方向だったらしいのです。屈託なく笑いながら、わたしの真横まで来たフトシ氏。電車に乗り込み、座れる程には空いていなかったので、つり革につかまり、並んで立ちます。

 ところで、フトシ氏は生まれながらか、または幼少時に大変な高熱を出したためか、はっきりとはわからないらしいのですが、感音性難聴で補聴器をつけています。そのこともあるのか、話をする時にすごく近くまで来て、じいっと相手の目を見て会話をします。その目は黒目と白目の境目がはっきりしていて、とてもきれいで、やっぱり整っているなと思ったけれど、なぜか全然ドキドキしませんでした。
 その時、生田斗真さんと徳井義実さんにあって、フトシ氏に無いものがわかりました。それは『色気』です。

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 説明するのが遅くなりましたが、ハンモックリフレというのは、ハンモックに乗った状態で足裏や頭や手などをほぐしてもらえるリフレクソロジー。意外な組み合わせに見えますが、フワフワと重力から解放されて施術を受けるのは、夢見る気持ち良さなのです。このハンモックリフレを発明したのは当のフトシ氏で、「東京蚤の市」や「もみじ市」など、人気イベントにもよく出ているので、知っている方もいらっしゃるのでは。

 考えてみると、フトシ氏に色気があったら、施術を受ける時に心拍数が上がってしまうので良くない。そう思うとフトシ氏に色気がないのは、すごくこの仕事に向いているということになります。
 更に考えると、もしかしたらフトシ氏はこの仕事のために、その男前であるがゆえに自然と醸し出される色気を、封印しているのかもしれません。
 いやいや、もしかしたら、わたしがもう若くないから、色気センサーが働かないだけということも考えられます。それとも、フトシ氏は意識的に友人であるわたしに向かって色気を封印しているのかもしれない。とすると、フトシ氏は色気を自由に出し入れできる能力があるのかもしれない。

 大人気ハンモックリフレは、まさかの草加にサロンがあります。草加の皆さま、是非ハンモックリフレへ遊びに行って、フトシ氏に会ってみてね。そして色気を感じたかどうか、教えてください。そもそも男前と思わない、とヒドイことを言うフトシ氏に近しい人もいますが、そこはお好みの問題です。

本棚

ハンモックの部屋は、絵本がいっぱい。

柄ガラス窓

懐かしい柄ガラスの窓。

壁-1

プライベートスペースの壁。

ハンモックリフレ

これがフトシ氏だ!(後ろ姿です)

(了)

※世界文化社delicious web連載【まだたべ】を改題しました。

文・イラスト・写真:新井由木子(あらい ゆきこ)/東京都生まれ。イラストレーター・挿絵描き。埼玉県草加市にある書店「ペレカスブック」店主。挿絵や絵本の制作のかたわら書店を営む。著書に『誰かの見たもの 口伝怪奇譚』『おめでとうおばけ』(大日本図書)、『まんじゅうじいさん』(絵本塾出版)ほか。「この世はまだ たべたことのないものだらけ。東京に近い埼玉県の、とあるカフェの中にあるペレカスブックで、挿絵や絵本を作りながら本屋を営んでいます。生まれ故郷の式根島と、草加せんべいの町あたりを行き来しながら、食べること周りのことを書いてゆきます」
http://www.pelekasbook.com
Twitter:@pelekasbook