note_第19回オムライス最高

中澤日菜子【んまんま日記】#19 オムライス最高!

 今回のテーマはオムライスである。
 黄色いオムレツに包まれた、鮮やかな赤いご飯。そのうえにとろんとかかった真っ赤なケチャップ。みなさん一度は食べたことがあるのではないだろうか。
 自宅で作っても美味しいオムライスだが、今日はみっつ、おすすめのオムライスをご紹介したいと思う。

 ひとつめは東京・北千住にあるオムライスと洋食のお店「Kitchen Eggs(キッチンエッグス)」。ここはなんと常時三十種類以上のオムライスを提供してくれる、まさにオムライスの見本市のようなお店だ。
 定番のケチャップオムライスはもちろん、自家製デミグラスソースオムライスやトマトソース、クリームソース、カレーソース、さらにはオリジナルオムライスまで、ありとあらゆるオムライスが揃っている。
 これだけ多彩なソースが取り揃えてあるだけでもオムライス好きにはたまらないと思うが、このお店の個性的なところはトッピングにあると思う。
 いわゆるトッピングと言っても飾り程度のものではない。ロースカツやメンチカツといった、それだけでおかずになる洋食が、でーんとオムライスの上に乗っている。他にもチーズハンバーグやポテトグラタン、さらにはなんと牛ステーキまで乗っかったオムライスまで存在する。オムライスに辿り着くまでにお腹いっぱいになっちゃうんじゃないかというボリューミーさ。しかもサイズはSからLLまで四種類。これならそうとうな大食いさんでも満足できる、もはやオムライスを超えたオムライスと言ってよかろう。もしも北千住に足を運ばれることがあったらば、ぜひ一度訪ねて欲しい個性的なお店である。

 ふたつめのお店は東京・初台の洋食店「Zwei Helzen(ツヴァイ ヘルツェン)」。ほんとうは誰にも教えたくない、わたしの大のお気に入り、穴場中の穴場だ。
 住宅街のなかに佇む一軒家で、知らなければまさかここがレストランだとは気づかないかもしれない。カウンター数席に、座敷がひとつというこじんまりした造りだ。民家の一階をお店として改装したらしく、靴を脱いで上がる。気さくなマスターと合わせ、まるで友だちのお家に招かれた気分だ。
 ランチはなんとオムライスのみ。「Kitchen Eggs」のまさに対極にあるお店だ(夜は完全予約制で、ハンバーグやパスタなどをマスターのお任せで出してくれる)。
 カウンターにつくや、さっそくマスターがオムライスを作り始める。香ばしいバターの匂い、卵の焼かれるじゅわっという音――これだけでもすでにご馳走だ。
「お待たせしました」
 やがて運ばれてきたオムライスは、トマトソースの上に緑色のソースが重ねられている。なんだろう、これはと思ってひと匙、掬(すく)ってみると――これが超絶美味しいバジルソースなのである。黄色と赤と緑。この三色が見事に調和している。メインの卵は半生でとろっとろ。
「いただきます」
 スプーンでオムライスの端から掬ってゆく。
 おおお、美味しい! ライスは炒めたというより、トマトリゾットのように汁気が多めで、お米がソースと具材の旨みをたっぷりと吸いこんでいる。ソースはケチャップとはまったく違い、生のトマトを潰し、さまざまな香辛料を混ぜ込んだような独特の爽やかさだ。マスターに伺ったところ、卵はもちろんトマトもほかの具材もすべて選りすぐった最高のものを使っているという。だからであろう、しっかりした味を保ちながら、それぞれがぶつかることなく絶妙のハーモニーを醸し出している。
 最後のひと口まで、あっという間にぺろりと完食。
 日本でいちばん美味しいオムライスは? と聞かれたら、間違いなくわたしは「ツヴァイ ヘルツェンのオムライス」とこたえるだろう。ああ、教えたくなかった……でも教えちゃった。

 さてみっつめ。それは『お願いおむらいす』である。「変わった店名だなあ」と思われたでしょう。ふふふ、じつはこれ、お店の名前ではなく、七月にわたしが出した最新の小説本のタイトルなのである。
 とある秋の一日、郊外で開かれた「ぐるめフェスタ」に集うさまざまなひとびとの人生を描いた連作短編集だ。表題の「おむらいす」以外にも、カレーやラーメン、そのほか美味しいものがいっぱい詰まった、人生の応援歌のような小説集である。ぜひ読んでみてください。美味しいものを食べたときのように、こころがほっこりするはずです。
 と、最後はちゃっかり宣伝でした。よろしくお願いおむらいす!

【今日のんまんま】

「ツヴァイ ヘルツェン」の究極のオムライス。こくがあるのにあっさりしていて、一度食べたら忘れられない絶品。んまっ。

オムライス

ツヴァイ ヘルツェン/東京都渋谷区本町1-54-4


文・イラスト・写真:中澤日菜子(なかざわ ひなこ)/1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。日本劇作家協会会員。1988年に不等辺さんかく劇団を旗揚げ。劇作家として活動する。2013年に『お父さんと伊藤さん』で「第八回小説現代長編新人賞」を受賞。小説家としても活動を始める。おもな著書に『お父さんと伊藤さん』『おまめごとの島』『星球』(講談社)、『PTAグランパ!』(角川書店)、『ニュータウンクロニクル』(光文社)、『Team383』(新潮社)、『アイランド・ホッパー 2泊3日旅ごはん島じかん』(集英社文庫)がある。最新刊『お願いおむらいす』(小学館)が好評発売中。
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