見出し画像

18歳、”成人式”ができなかった子どもたち/ドメニコ・スキラーチェ

コロナ時代の学校と子ども〜イタリアの校長先生が伝える「これから」の教育〜vol.8

イタリアの科学系名門高校「アレッサンドロ・ヴォルタ高校(以下、ヴォルタ高校)」のドメニコ・スキラーチェ校長先生著『「これから」の時代(とき)を生きる君たちへ』の発売から8ヶ月。新型コロナの影響による休校を乗り越えて、いかにして安全に、スムーズに学校を再開させたのか――スキラーチェ校長先生が、リアルな情報や子どもたちへの思いを綴る連載です。
vol.1から読みたいかたはこちらから

註:2020年12月28日、この日はミラノに今シーズンの初雪が降り、スキラーチェ先生からヴォルタ高校前の雪景色が送られてきた。

画像1

数日前、私はわが校の生徒・アレッサンドラに会いました。彼女とは学校の廊下で会うとよく話をしていたものですが、対面したのは10月26日に学校が閉鎖されて以来です。彼女に挨拶をすると、今回の二度目となる学校からの隔離期間をどう過ごし、リモート学習しているかを教えてくれました。彼女は一人っ子で、両親も在宅勤務をしているため、家では常に両親と一緒だといいます。

彼女がこの期間中、最もつらかったことの一つは、18歳のバースデーパーティーを諦めなければならなかったことでした。18歳で成人するイタリアでは、誕生日に“成人式”のパーティーが行われるのが伝統です。アレッサンドラはとても社交的で、多くの友達がいます。彼女のパーティーは、もし開かれたなら、確実に楽しく、にぎやかだったことでしょう。

成人式は若者にとって重要なイベントであり、大人への一種の通過儀礼です。恐れを抱いてその日が来るのを待ちながら、数か月かけて準備するイベントなのです。しかし2020年は若者にとって残酷な年でした。卒業パーティー、友人との旅行、仲間とすごす週末がキャンセルされ、恋を知ることもできませんでした。

すべてがコロナウイルス感染症(Covid-19)対策によってキャンセルされ、家族と過ごすクリスマスの後、大晦日も両親と一緒に壁に囲まれた家の中で迎えます。

15歳から25歳までの学生たち――高校生と大学生は、学校に通う機会だけでなく、厳密な意味での社会性も与えられています。学生時代に仲間との関係を築くことがどれほど重要であり、人としての基盤を作るのかを知っています。これらの関係を通して、また関係の中で人として成長し、寛大になり、自律し、親離れ、子離れしていくのです。

若者たちは突然、そして長期にわたって、密接で複雑な人間関係を築くネットワークを断たれ、他人と関わることができず、家族とだけ生活する状況に追いやられています。これは子どもたちの人生に悪影響を及ぼし、自然な成長過程を乱し、場合によっては、心理学的にも障害を与えます。

教室

極めて楽観的な一部の心理学者は、人の持つ内的資源、精神の強さによって、若者たちはこのトラウマを克服できるだろうと主張します。自分たちは犠牲者だという思いを抱えながらよいものを生み出すことは決してなく、大人や教育者は、若者たちを犠牲者だと誇張して扱ってはならない、われわれ大人がコロナ世代(Covid Generation)を形成する間違いを犯してはならない、と言っています。そうしないと、今日の子どもたちは明日大人になり、自分たちが奪われたもの、できなかったことを常に嘆くでしょう。

これらの心理学者は、成長のプロセスは決して直線的ではないと言います。進歩してはいったん挫折し、また進歩する、障害を克服するとより大きな障害が訪れる、といったねじれた道であり、それを経ることで大きく成長すると主張しています。私たち大人が犯す可能性のある最も深刻な間違いは、人間はあらゆる障害から抜け出すことができる、と自分自身を欺くことです。

一方で他の心理学者は、長期にわたって社会的活動を止めることの危険性と深刻さを主張しています。青年期の成長過程にそのまま反映される可能性があり、子どもたちの社会性を回復する必要性を強調するのです。そして一部の学校ではありますが、高校は1月7日から、大学は2月から学校が再開します。

最初の心理学者グループの主張は否定しませんが、私は個人的に、二つ目の心理学者グループに同意する方向です。私は子どもたちが、家の壁の中に閉じ込められたこと、夢破れたこと、望みが否定されたことなどを知っているため、彼らの”諦め”を恐れているのです。子どもたちに、怒りを表し、抗議してもらいたいのですが、彼らは日ごとにますます、コンピューターの画面の後ろでゆっくりとシャットダウンしていくように見えます。

画像4

昨日、コロナウイルスに対するワクチン接種キャンペーンが、ヨーロッパ連合(EU)全体で始まりました。これは抗コロナの実証にとって象徴的なキャンペーンであり、高い価値があります。何億人ものヨーロッパ人にワクチン接種がなされた長い月日の終わりには、悪いニュースがなくなることを願っています。

そうすれば、アレッサンドラは次の誕生日をすべての友達と祝うことができます。そして私たち皆が人間関係を取り戻し、旅行し、これまで通りに仕事をし、パーフェクトでないとしても私たちの愛する生活を取り戻すことができるでしょう。

このコラムは、毎月2回(中旬/月末)のペースで更新します。コロナからちょうど1年後、2021年3月まで続く予定です。ご期待ください。(編集担当:原田敬子)
※連載をまとめて読みたいかたは、こちらから。

街の中の先生(ノーマスク)

文:Domenico Squillace(ドメニコ・スキラーチェ)/イタリア・ミラノでもっとも権威のある高校のひとつ、「アレッサンドロ・ヴォルタ高校」校長。1956年、南イタリアのカラブリア州・クロトーネ生まれ。25歳のときに大学の哲学科を卒業、ミラノの高校で26年間、文学と歴史の教師を務める。 その後、ロンバルディア州とピエモンテ州で6年間校長を務め、2013年9月から現職。26歳になる娘のジュリアはオランダ在住。趣味は旅行、読書、そして映画館へ行くこと(週に3回も!)。犬が大好き。


この記事が参加している募集

オープン学級通信

子どもに教えられたこと

もしよかったらフォローもしてみてくださいね!
18
世界文化社の公式noteです。書籍の発行情報やnoteオリジナル連載など。