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ろくでもない思いつき/新井由木子

 世の中にはさまざまな『思いつき』が、溢れています。
 人々を幸せにする『思いつき』としては、カツカレーやクリームソーダがあり、わたしたちはその味を口にしては、「思いついた人、天才!」と、心からの賛辞を惜しみません。

 しかし残念なことに、この世には『ろくでもない思いつき』というものもあるのです。
 特に権力者の『思いつき』ともなると、ろくでもないものに限ってしぶとく、人を不幸にしたり、ギャフンと言わせたりしながら、いつまでも根強く残り続けているのです。

 その学園は幼稚園から大学まで通じた一貫校で、わたしは高校になってからの編入生でした。
 学園内には4つの委員会がありました。一年を5期に分けて運営されており、高校2・3年次は、全員が順番にいずれかの委員会に入ることを義務づけられていました。
 70人ほどいる3年生は、14人ずつ5期に振り分けられ、その期の全委員会を統括すべく頂点に立つ『委員長』は全校生徒からの投票で決める、というならわしがありました。

 驚くべきことは、委員長に立候補していてもいなくても、14人の委員全員が投票の対象になることです。
 選挙当日には、集会室にその期に委員になる14名の名前が大きく張り出され、そこで委員長を選出すべく、投票権を持つ中学部と高等部420人余の票がひとつずつ読み上げられていくのです。

 それは紛れもない人気投票大会
 自分が委員となる期の選挙の日、人気も人望も無いことをよくわかっていたわたしは、ゼロ票を避けるべく自分に投票するしかありませんでした。結果はまさかの2票で予想の倍でした。

 つまり、わたしの言いたいことは、こうです。
 人気コンテストのような選挙は、人気のある人たちだけでやってほしい。
 人気も人望も無くて良いから、日陰でひっそりと生きてゆきたいと思っている人間をも、その舞台に引きずり出すのは罪です。
 立案した創立者は過去の人。「立候補しない生徒にも公平に選ばれる権利を」とでも『思いついた』のでしょうかね。なんと迷惑な!

 皆さんも、何か思いついたら、責任ある立場であればあるほど、実行にあたっては気をつけてくださいね。

思いつき書店091文中

(了)

草加の、とあるおしゃれカフェの中の小さな書店「ペレカスブック」店主であり、イラストレーターでもある新井由木子さんが、関わるヒトや出来事と奮闘する日々を綴る連載です。毎週木曜日にお届けしています。

文・イラスト:新井由木子(あらい ゆきこ)/東京都生まれ。イラストレーター・挿絵描き。埼玉県草加市にある書店「ペレカスブック」店主。挿絵や絵本の制作のかたわら書店を営む。著書に『誰かの見たもの 口伝怪奇譚』『おめでとうおばけ』(大日本図書)、『まんじゅうじいさん』(絵本塾出版)ほか。
「東京に近い埼玉県の、とあるカフェの中にあるペレカスブックで、挿絵や絵本を作りながら本屋を営んでいます。生まれ故郷の式根島と、草加せんべいの町あたりを行き来しながら、思いつきで巻き起こるさまざまなことを書いてゆきます」
http://www.pelekasbook.com
Twitter:@pelekasbook

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「思いついたことはやってみる」と言うのは、とあるおしゃれカフェの中の小さな書店「ペレカスブック」店主であり、イラストレーターでもある新井由木子さんです。世界文化社delicious webの人気連載【まだたべ】を改題し、食べるモノに限らず、関わるヒトや出来事と奮闘する日々を綴ります。今日も思いつきで色々なことが巻き起こっていますよ。

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