note_第21回_ecomaコーヒー

新井由木子【思いつき書店】vol.021 ecoma coffeeの巻

 わたしの自宅とわたしの小さな書店ペレカスブックを結ぶ街道上に「ecoma coffee」はあります。
 朝の時間を楽しむ常連さんや、お昼ごろにフラリと訪れた様子のお友だち同士。散歩の途中で休まれるおじいさん、おばあさん。ご家族からおひとり様、ワンコを連れた方はポカポカと陽のあたる表の席で。紺色のシェードと白い壁が美しい小さなお店には、見かけるといつも人がいます。

 ecoma coffeeを営むのは、新婚ホヤホヤのミホちゃんとジュンペイくんという若夫婦です。自宅の近所なこともあって、わたしは1日に何度もecoma coffeeの前を自転車で通過するのですが、その度にこのecomaの夫婦が「あらいさーーーん!」と呼びかけてくるのです。
 横目で確認すると、ecoma coffeeの四角い窓にミホちゃんかジュンペイくん、まれに2人で窓枠にギュッと詰まって、ニコニコ手を振っているのが見えますが、返事をする余裕もないままに、その光景は一瞬にして後ろに流れ去っていきます。
 だいたいecomaの夫婦が「あらいさーーん!」の『あ』を言う時にはecomaの店の真ん前でも、『らい』の時には隣の隣の郵便局を通過中です。そんなにスピードを出していない運転ですが、『さーーん!』という声はすでに背中で聞いているわたし。この後には「いってらっしゃーい!」が続くと思われますが、もうわたしは街道の彼方に豆粒のように小さくなって見えていることでしょう。

 そしてわたしはいつもその明るい声に驚いて、自転車のハンドルが揺らぎます。自転車を一生懸命漕いでいる時に、年齢的に反射神経も鈍ってきているわたしへ、いきなり声をかけたら危ない。毎朝なのに慣れないのは、順応する能力も衰えてきているのでしょうか。
 先日直々に、安全運転のためにペレカスへの声かけは心の中だけにして欲しい旨をお伝えしました。

 ともあれ、毎朝このお店の前を通るのはとても嬉しい。声かけをお互いに心の中にしてからは落ち着いて、ecomaのことを考える一瞬になっています。
「おはよう」「夫婦で笑ってるな」「雨だから少し暇そうだな」「お! 街歩きの団体さんかな?」「あらー、ワンコも一休みしてるのか、かわいいな」などと、通る度に心の中でecomaのことを思う。「あらいさん、おはよう」「あれ、今日は遅刻じゃないかな?」ecomaのほうでも、思っているはず。
 おむすびばあさんのお仕事(思いつき書店vol.010参照)が無い朝には、朝のコーヒーをecomaで楽しんだりもします。酸味のあるコーヒーで淹れたラテの美味しさは、この年になって初めて知った味。ミホちゃんのラテアートの猫がちょっとブサイクだけどかわいい。

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 ecomaは去年できたばかりなのに、街の中に溶け込んで、街の色を少し暖かくしてくれたように思います。人々が行き交う通りの上に人が人を見る目がある。人が人を思う気持ちが交差して、地域がひとつの家になるようで、とても温かい気持ちになります。街の中に喫茶店があるのって、想像以上に良いものです。

 そんなecoma coffeeが、ハウスブレンド「cat street blend」を作ることになり、お持ち帰り用の豆のタグを、ペレカスブックにご依頼くださった。何故cat streetかというと、運が良ければ5匹の猫をecomaのガラス張りの入口から見ることができるから。正面のバル、スバルの2階に住む『チャオくん』と『メイちゃん』、スバル隣の山崎印房さんの『草太くん』『ミントちゃん』。それから名物ノラの『ニャン』です。
 地域の猫が登場するタグがいいな。集めたくなってしまうような活版印刷がいいな。テキン(手動活版印刷機)のできるすずちゃんに頼もう。雨の日限定のタグがあっても楽しいな。たくさんの思いが膨らみます。地域の中で絵の仕事をするのは、とても楽しいです。

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まだたべ0021-04

(了)

※世界文化社delicious web連載【まだたべ】を改題しました。

文・イラスト・写真:新井由木子(あらい ゆきこ)/東京都生まれ。イラストレーター・挿絵描き。埼玉県草加市にある書店「ペレカスブック」店主。挿絵や絵本の制作のかたわら書店を営む。著書に『誰かの見たもの 口伝怪奇譚』『おめでとうおばけ』(大日本図書)、『まんじゅうじいさん』(絵本塾出版)ほか。「この世はまだ たべたことのないものだらけ。東京に近い埼玉県の、とあるカフェの中にあるペレカスブックで、挿絵や絵本を作りながら本屋を営んでいます。生まれ故郷の式根島と、草加せんべいの町あたりを行き来しながら、食べること周りのことを書いてゆきます」
http://www.pelekasbook.com
Twitter:@pelekasbook

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「思いついたことはやってみる」と言うのは、とあるおしゃれカフェの中の小さな書店「ペレカスブック」店主であり、イラストレーターでもある新井由木子さんです。世界文化社delicious webの人気連載【まだたべ】を改題し、食べるモノに限らず、関わるヒトや出来事と奮闘する日々を綴ります。今日も思いつきで色々なことが巻き起こっていますよ。

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