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画家モネから学んだ秋の味「栗のガトー」を作ろう/スギアカツキ

直島での思いがけない出会い

先日、夏の終わりの締めくくりとして、いえ秋の訪れを楽しく迎えるために、旅に行ってまいりました。
向かった先は、香川県・香川郡・直島町。“芸術の島”と称されているこの島には、建築家・安藤忠雄が造り出したホテルや美術館、数々の現代アートが優美に存在しています。
海外渡航が制限されている2020年、かねてより安藤ファンである私は、念願の直島へ行くことを決めました。

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直島滞在中、月夜の晩に輝く「南瓜」(草間彌生)

滞在中、安藤建築にどっぷり心酔し理解を深めながらも、私の食アンテナが刺激されたことがありました。
それは「自然と人間を考える場所」をコンセプトに安藤氏が設計した地中美術館での出合い。
『睡蓮』で有名なクロード・モネが、実は大いなる美食家であり、独自のレシピを“6冊のノート”で残すほどの料理家でもあったということ。

美術館のミュージアムショップには、モネが残したレシピを元にした書籍も置かれていたため、私はそれらを残らず購入。
そこには、単なるレシピ集にとどまらない、食へのこだわりや執着が窺え、モネの人間像までも垣間見えるようで、すっかり夢中になってしまいました。

さっそく「栗のガトー」を作ってみましょう

ここで今回ご紹介したいのが、モネのレシピの中で、私が一目惚れをしたスイーツ「栗のガトー」。
栗とたまごが主役の、秋らしい西洋菓子です。

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秋の食材として昔から愛されている栗ですが、いざ皮を剥くとなると一苦労ですよね。
でも、そんな面倒臭さを忘れさせてくれる存在が、私にとっては「モネ」と「たまご」という2大巨匠。
モネが生み出したおいしい世界の中で、香り高い栗のお菓子を作れるのであれば、多少手間がかかっても頑張ってみたいなと思わせるパワーがありませんか?

そこで『モネ 庭とレシピ』(林 綾野、講談社)で紹介されているレシピを頼りに、自分の都合で食材の量や好みは多少アレンジを利かせながら、作ってみることにしました。
まずは最初の難関、栗の皮剥きです。

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このために朝早起きをして作業に向き合ってみると、意外とストレスなくできることに気が付きました。
おそらく何事も、早朝の仕事が捗(はかど)るのと同じでしょうね。

皮を剥いた栗、牛乳、砂糖(私はメープルシュガーをチョイス)を鍋に入れて、弱火で30分コトコト煮ていきましょう。

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火を止めてバニラオイルとラム酒を少量加えて、ミキサー(レシピではラム酒の記載なし。ミキサーではなく、“濾(こ)す”と書かれています)へ。
なめらかになった栗ペーストにバターを加えて混ぜ、さらに卵黄を加えます。

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最後に、卵白を十分に泡立てたメレンゲを加えて、手早く混ぜ合わせ、耐熱皿に入れてオーブンで30分焼いていきます。

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この30分間にどのような幸せが訪れるかは、実践した人のみが体験することになるでしょう。
なんとも言えぬ栗とバターとたまごの香りは、多くの食いしん坊を魅了するに違いありません。

さあ、焼き上がりました。

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ここでレシピには大事な注意書きが。
それは、「しっかり冷やしてから食べる」というモネからの伝言です。
余熱をしっかり取り、一晩冷蔵庫で冷やしていただくことにしましょう。

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生地はしっとりとしていて濃厚なチーズケーキのようなテクスチャー。
これをスプーンですくい、アイスクリームを添えてみました。

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食べるまでにそれなりの時間や労力がかかりますが、口に入れた瞬間、その苦労が報われる感動が訪れることでしょう。
手をかけるという行為は、気持ちをそこにしっかりと傾けることにも繋がりますよね。
日頃の自分自身のあり方を浄化してくれるような、私にとっては特別なレシピとなりました。

美味しいから作ってみて!という安易なオススメではなく、ちょっと疲れを感じたときにこそ、時間をかけて丁寧に、ぜひ作ってみていただきたい一品です。

2020年はとっても特別な年。
さまざまなストレスを感じている方も多いと思いますが、巨匠モネの食への探究心をきっかけに、芸術や自然、食への好奇心を膨らませてみるのはいかがでしょうか?

材料と作り方はこちらです

「栗のガトー」※『モネ 庭とレシピ』を参考に、若干アレンジした内容を記載しています。

【材料5人分】
和栗(皮つき) 500g
牛乳 300ml
メープルシュガー 60g
バター(発酵バターがオススメ) 60g
卵 2個
バニラオイル 5滴
ラム酒 大さじ1

【作り方】
1)栗の皮に切り込みを入れ、5分茹でる。専用剥き器もしくは包丁で皮を剥いて鍋に入れる。
2)鍋に牛乳、メープルシュガーを加えて火にかけ、フツフツしてきたらフタをして弱火で30分煮る。火を止めてバニラオイルとラム酒を加える。
3)2をミキサーに入れてなめらかになるまで撹拌する。ボウルに取り出して、バターを加える。冷たいバターを加えるのがオススメ。
4)卵を卵黄と卵白に分けて、卵白を撹拌してメレンゲにする。卵黄は3のボウルに加えて混ぜ合わせ、最後にメレンゲも加えて、耐熱皿に注ぐ。
5)180℃に予熱しておいたオーブンで30~35分焼く。
6)粗熱が取れたら冷蔵庫で一晩寝かせて、翌日にアイスクリームなどを添えていただく。

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この連載では、「たまごが一番大好きな食材」という食文化研究家のスギアカツキさんが、その経験と好奇心を生かしたさまざまなアプローチで「たまご」を掘り下げていきます。【たまごのはなし】は、ほぼ隔週火曜日に掲載します。

文・写真:スギアカツキ/食文化研究家。長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを幅広く学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)、女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)が好評発売中。
「みなさん、一番大好きな食べ物ってなんですか? 考えるだけで楽しくなりますが、私は『たまご』という食材に行きつきます。世界中どこでも食べることができ、その国・エリア独特の料理法で調理され、広く愛されている。そしてなにより、たまごのことを考えるだけで、ワクワクうれしい気分になってしまうんです。そこで、連載名を『たまごのはなし』と題し、たまごにまつわる“おいしい・たのしい・うれしい”エピソードを綴っていきたいなと思います」
Instagram:@sugiakatsuki