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コロナで失われた、子どもたちが真に成長する機会/ドメニコ・スキラーチェ

コロナ時代の学校と子ども〜イタリアの校長先生が伝える「これから」の教育〜vol.2

イタリアの科学系名門高校「アレッサンドロ・ヴォルタ高校(以下、ヴォルタ高校)」のドメニコ・スキラーチェ校長先生著『「これから」の時代(とき)を生きる君たちへ』の発売から5カ月。新型コロナの影響による休校を乗り越えて、いかにして安全に、スムーズに学校を再開させたのか――スキラーチェ校長先生が、リアルな情報や子どもたちへの思いを綴る連載です。

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2020年が始まって最初の数カ月が過ぎたころから、世界中で巻き起こっているコロナウイルスによる“健康危機”。その間、私たちは何度も「危機はすべてチャンスである」「きっとよくなるよ」といったフレーズを耳にしました。

これらの表現やイディオムには、深い真実が含まれていると思うことがあります。実際に歴史を振り返ってみると、危機が長く続いた時代は、経済的にも、社会・文化の発展の面でも飛躍しています(その速度に違いはありますが)。人というのは、危機から抜け出すために、自分たちの最大のエネルギーと創造性を働かせ、新しい問題に対する解決策を見つけるために能力を発揮させるようになっているのです。

危機は偉大な人格者、偉大なリーダー、科学者、芸術家たちを生み出してきた――つまり、危機を乗り越えるために、民の手を取り、導くことができる人々を生み出すのです。

しかし私の日常生活やわが国、人間関係、仕事といった小さな世界を見る限りでは、そのような魔法がかった瞬間が訪れるのは、まだまだ遠い先のように思えます。イタリア、私の住む街、世界の他の地域では、明日の状況さえ不確かで、いまだに恐怖にとらわれています。 Covid-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックは、私たちが抱える、最も深部にある恐れを浮き彫りにしたのです。私たちは天然資源を無謀に利用し、自然に対して“全能で無敵”だと感じていた。しかし現実は、自然(ウイルス)に対して弱者であり、思い込みは事実ではなかった。それは明白です。

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学校が再開してから最初の数週間、私は多くの人々、特に私たちの生徒をよく観察します。彼らの行動を観察して、私たちは今日(こんにち)の学校生活と、すべてが突然変わった2月以前の学校生活について考えています。

危機以前、ヴォルタ高校の生徒たちは、大人数の仲間で集まるのが大好きでした。午前中、授業の合間に中庭で休憩したり、放課後、正面玄関の前で話し続けたり。私は一日の授業の終わりに、生徒たちが幸せそうで、リラックスしている姿のを見るのが喜びでした。

私の学校では伝統的に(ほとんどの高校、特に大都市の学校と同じように)、一学年の半分が過ぎた頃、だいたい2月に2~3日、生徒が学校を運営します。それは“セルフ・マネージメント”と呼ばれます。教師たちは何も教えず、生徒たちがイニシアチブをとって、人間関係やネットワークを通じて組織されるものです。

そこでは、政治、芸術、社会問題、彼らの年代が抱える典型的な問題まで、さまざまなトピックについて議論が交わされます。科学者、ジャーナリスト、アーティスト、有名人など、学生が会話したい講演者や専門家も招待されていました。また自治のもとで、中庭では祝賀会やコンサート、美術展などが開催され、食事をしたり、料理したりできるようになっていました。誰が最もよいものを準備できるのか、競争もありました。

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私たちの高校の前には小さな公園があり、中央に大きくて美しい噴水があります。生徒たちは土曜日の夜、ディスコに行く代わりに、噴水の周りでパーティーを開くのが大好きでした。屋外のパーティーで、音楽とダンスをしながら噴水でパーティーを楽しんでいたのです。

修学旅行も今はできません。毎年、何人かの教師が同行して、クラスのみんなでフィレンツェやローマなどの美しいイタリアの芸術都市や、アムステルダム、パリ、バルセロナ、ベルリン、ロンドン、ウィーンなど、ヨーロッパの都市まで足をのばしていました。

これらの行事は、いますべて中断しています。とはいえ、よりよい時代になるまで延期することもできません。ですから私は、よりよい時代がいますぐに来ることを願っているのです。

このコラムは、毎月2回(中旬/月末)のペースで更新します。コロナからちょうど1年後、2021年3月まで続く予定です。次回は、10月26日に掲載を予定しています。ご期待ください。(編集担当:原田敬子)

街の中の先生(ノーマスク)

文:Domenico Squillace(ドメニコ・スキラーチェ)/イタリア・ミラノでもっとも権威のある高校のひとつ、「アレッサンドロ・ヴォルタ高校」校長。1956年、南イタリアのカラブリア州・クロトーネ生まれ。25歳のときに大学の哲学科を卒業、ミラノの高校で26年間、文学と歴史の教師を務める。 その後、ロンバルディア州とピエモンテ州で6年間校長を務め、2013年9月から現職。26歳になる娘のジュリアはオランダ在住。趣味は旅行、読書、そして映画館へ行くこと(週に3回も!)。犬が大好き。


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