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イタリア便り――クリスマスのすごし方/ドメニコ・スキラーチェ

コロナ時代の学校と子ども〜イタリアの校長先生が伝える「これから」の教育〜vol.7

イタリアの科学系名門高校「アレッサンドロ・ヴォルタ高校(以下、ヴォルタ高校)」のドメニコ・スキラーチェ校長先生著『「これから」の時代(とき)を生きる君たちへ』の発売から7ヶ月。新型コロナの影響による休校を乗り越えて、いかにして安全に、スムーズに学校を再開させたのか――スキラーチェ校長先生が、リアルな情報や子どもたちへの思いを綴る連載です。
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あと数日で、今年もクリスマスが訪れます。この日はキリスト教において、イースターとともに最も大切な休日のひとつとされています。クリスマスは宗教的な祝賀行事であるだけでなく、日々の活動をいったん止めて最愛の人たちと集うひと時でもあり、ニューイヤーの短い休日と合わせて連休になるクリスマスウィークは、重要な休暇なのです(註:ヨーロッパでは新年よりもクリスマス休日のほうが大切で、期間も長い)。

クリスマスには伝統的に、家族や友人とプレゼントを交換します。イタリアでは山や雪に囲まれて休日をすごすことも多く、スキーリゾート地といえば北部のアルプスがメインですが、中部および南部のアペニン山脈にも豊富にあります。

イタリアは他国への移民の多い国です。かつて私たちの国は貧しく、特に南部はそれが顕著でした。そのため何百万人ものイタリア人が、より豊かで幸せをもたらしてくれる地域に移住しました。 20世紀初頭には主にアメリカへ向かい、第二次世界大戦後はヨーロッパの工場や造船所へ、とりわけドイツで国の再建に携わりました。そして1960年代には、イタリア国内での移動が盛んになり、南部の貧しい農民は、急速に工業化が進んでいた北部に移住しました。例えばミラノやトリノのように大規模工場のある都市は、農民から労働者に変わった南部の多くの若者にとって、魅力的な街だったのです。

そういう私も、南イタリアから北イタリアへの移民です。1981年、大学を卒業してすぐにミラノに来て教師になりましたが、生まれたのは南に1200キロ離れた海辺のカラブリア州です。そのため、故郷で家族と集うクリスマスを大切にしていますし、この行事を大変重んじています。イタリア全土から、世界中から、故郷に帰りたい移民にとって、クリスマスは非常に重要な伝統行事なのです。

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しかし今年はすべてが例年と異なります。新型コロナウイルスによって、多くのことが不可能になりました。イタリア政府は新たな感染の波を封じ込めるために厳しい措置をとりました。これらは痛みを伴う、または少なくとも厄介な対策ですが、私見では必要な措置だと思います。また多くの科学者は、対策はもっと厳しくしなければならなかったといいます。

クリスマスウィークや休暇中、山ではホテルとスキーリフトの両方とも閉鎖されるため、スキーをすることはできません。午後10時から翌朝5時までは外出禁止のため、教会は真夜中に行われるミサを3時間前倒ししてスタートします。12月21日から1月6日までは国内の移動が禁止されるため、とても悲しいことに、移民はみな故郷で伝統的なクリスマス休暇を過ごすことができなくなります。海外から帰国する人は14日間隔離されます。

ご承知の通り、これらは人の移動を防ぐための対策であり、ウイルス感染のさらなる拡大を防ぐために必要な対策です。私たちは皆、この“犠牲”が功を奏すること、そしてワクチンのおかげで2021年のクリスマスが素晴らしい集いになることを願っています。

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イタリアのクリスマスには、多くの伝統があります。私たち民衆がキリスト生誕を祝うために何世紀にもわたって育んできた文化であり、その方法はたくさんあります。その一つをご紹介しましょう。

今や広範囲で行われていますが、とくに私の故郷、南イタリアで伝統的に発展したのが、イエス・キリストの生誕シーンを小さな人形を使って表現すること(プレゼーペ)。一人ひとりが想像力を働かせ、はるか遠く昔、2020年前の夜、ベツレヘムにキリストが降誕したシーンを準備する――その魔法の夜のことを、人形や彫像、ジオラマで可能な限り表現するのです。

そこに登場するキャラクターは数百。羊飼い、農民、洗濯屋さん、動物、そして衣服や山、川や湖などもあるかもしれません。しかしキリストのベビーベッドが置かれたシーンに登場する人物や彫像は少なく、母マリアと父ヨセフ、彼らの赤ちゃんが生まれた洞窟、またはクリスマスイブに飼い葉桶が置かれた洞窟、息を吹きかけながらキリストを暖める牛とロバ、キリストに敬意を表するために東方からやってくる3人の王(博士)、彼らを案内する彗星とその方法だけ。これらの重要な要素を、私たちは自由に想像力をめぐらせて表現します。

世界で最も美しいキリスト降誕のプレゼーペが見られるのは、間違いなく伝統のあるナポリでしょう。いくつかの主要な美術館に保存されている陶器製のものは、まさに芸術作品です。毎年ナポリではクリスマスの20日前、中心部にあるサン・グレゴリオ・アルメーノと呼ばれる歴史ある長い通りで、大規模なクリスマスマーケットが開かれ、何百人もの職人が美しいキリスト降誕シーンの置物を、イタリア中、世界中から訪れた愛好家に販売します。今年は緊急事態のためにこの素晴らしい伝統も中止となりましたが、1年後には必ずナポリに行って置物を買い、世界で最高のピザを食べるつもりです。

親愛なる日本人の皆さまに、メリークリスマス。

このコラムは、毎月2回(中旬/月末)のペースで更新します。コロナからちょうど1年後、2021年3月まで続く予定です。ご期待ください。(編集担当:原田敬子)
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街の中の先生(ノーマスク)

文:Domenico Squillace(ドメニコ・スキラーチェ)/イタリア・ミラノでもっとも権威のある高校のひとつ、「アレッサンドロ・ヴォルタ高校」校長。1956年、南イタリアのカラブリア州・クロトーネ生まれ。25歳のときに大学の哲学科を卒業、ミラノの高校で26年間、文学と歴史の教師を務める。 その後、ロンバルディア州とピエモンテ州で6年間校長を務め、2013年9月から現職。26歳になる娘のジュリアはオランダ在住。趣味は旅行、読書、そして映画館へ行くこと(週に3回も!)。犬が大好き。