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留学生や外国人学生が平等に学習できる環境づくり/ドメニコ・スキラーチェ

コロナ時代の学校と子ども〜イタリアの校長先生が伝える「これから」の教育〜vol.6

イタリアの科学系名門高校「アレッサンドロ・ヴォルタ高校(以下、ヴォルタ高校)」のドメニコ・スキラーチェ校長先生著『「これから」の時代(とき)を生きる君たちへ』の発売から7ヶ月。新型コロナの影響による休校を乗り越えて、いかにして安全に、スムーズに学校を再開させたのか――スキラーチェ校長先生が、リアルな情報や子どもたちへの思いを綴る連載です。
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はじめに(註)
スキラーチェ先生が校長を務めるヴォルタ高校ではこのたび、生徒たちが学校のオフィシャルYouTubeチャンネルで自分たちの学校について語る動画を配信した。そのひとつに、日本語を話す高校5年生(イタリアの高校は14歳~19歳の6年制)のスミレさんによる動画がある。
https://www.youtube.com/watch?v=Lz1d3e6KRkY

ミラノ・ヴォルタ高校の生徒が、自分の学校について日本語で説明する動画を録画したのはなぜでしょう? イタリアでは毎年11月末から12月初旬にかけて、すべての学校が、来年入学予定(註:イタリアは9月入学)の生徒と家族に、オープンキャンパスで自分たちの学校について紹介します。非常に多くの人が集まるため、今年は健康上の懸念から、残念ながらオンラインで開催しています。

私たちの学校のYouTubeチャンネルをご覧になると、イタリア語以外の言語でアップされている動画は、日本語だけではなく、アルバニア語、ルーマニア語、アラビア語、中国語、ロシア語などもあることがわかります。なぜこのようなことをすると決めたのでしょうか。

イタリアでは、学生全体の約10%は、国籍がイタリア以外です。世界中から来た86万人の少年・少女と、イタリアに長年住み、働いてきた移民の子どもたちです。ミラノでは、その割合は20%に達しています。

自宅でイタリア語以外の言語を話す人は、実際にはもっと多く、その約2倍といわれます。上記の数字は、“イタリア以外の市民権”を持つ人の割合です。他国生まれの親(片親または両親)を持つ子どもの多くがイタリアの市民権を取得しており、またイタリア以外の市民権を持つ若者であっても、その64%はイタリア生まれです。イタリアの市民権取得の権利については、政治的に物議を醸している問題です。

これらの数字を踏まえると、イタリア国民とそれ以外の学生が、その差なく完全に同じレベルで学習できることが、学校における中心的なテーマであり、最も重要なテーマであることが理解できるでしょう。

実際イタリアでは、“イタリア人”であるかどうかに関係なく、すべての学生に完全に、授業料無料で学校に通える制度が保証されている一方で、外国人は残念ながら、留年や中途退学の学生数がイタリア人の3倍高いという最新データがあります。この数字は、過去10年間でゆっくりと良化してきましたが、学習が完全に平等に行われているというには、ほど遠い状況であるのは明らかです。イタリアの学校制度は非常に平等主義的で、州が管轄する公立学校が普及しており、すべての人に均等に、授業を無料で受けられる機会を保証しているにもかかわらずです。

この権利は、我が国の最も重要な法律である共和国憲法にも書かれています。第34条では、すべての人に教育を受ける権利をこのような言葉で定めています。「有能で価値のあるものは、たとえ手段を奪われたとしても、最高級の勉強をする権利を有する」。

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イタリアでは、イタリア人学生と留学生が完全に同じ状況で勉強できる状況には、まだほど遠いですが、私たちはその問題に取り組み、状況は年々、ゆっくりですが改善されています。

たとえば留学生は、高校を19歳で卒業してすぐに就職することを考え、主に専門学校や専修学校を選んでいたものですが、今では高校を選ぶ人が増えています。大学進学を目的に学習を行うタイプの学校、このヴォルタ高校のような学校では、留学生や外国籍の学生は全体の約10%です。ヴォルタ高校では全員がイタリア語を上手に話しますが、問題は、複雑で難解な教科書を勉強するために必要なイタリア語――専門性の高い「勉強のためのイタリア語」とも言うべき言葉は、一般的に話されているイタリア語とはまったく別物だということです。

そのため私たちは、総合的に学習をサポートするための特別な“外国語プロジェクト”を設け、彼らがこの豊かな言語を習得し、大学のドアを開くまで学習を支援しています。彼らに捧げられたこのプロジェクトは「未来への架け橋」と呼ばれています。このようなプロジェクトに資源を投資することは正しいと私たちは考えています。

真に全員が一つになることは、学校だけにもたらされるもので、肌の色に関係なくすべての生徒に平等な機会が提供されるのです。大都市に典型的な現象である疎外感や、暴力や社会問題を引き起こす現象に対して、唯一の解毒剤になるのです。

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そのため、外国人家族への礼儀として、エジプト人の両親のもとミラノで生まれたRanimさんの協力を得て、何人かの学生に、母国語で学校を紹介する数分のビデオを録画してもらうように依頼したのです。

アラビア語、ロシア語のIvanさん、ルーマニア語のDenisaさん、アルバニア語のEmaさん、中国語のJinさんに感謝します。そして5年G 組の学生で日本人の娘であるスミレさん。ヴォルタ高校の4人の日本語ネイティブスピーカーの1人である母とイタリア人の父を持つあなたの、美しい言語でのビデオメッセージにとりわけ感謝します。

このコラムは、毎月2回(中旬/月末)のペースで更新します。コロナからちょうど1年後、2021年3月まで続く予定です。ご期待ください。(編集担当:原田敬子)
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街の中の先生(ノーマスク)

文:Domenico Squillace(ドメニコ・スキラーチェ)/イタリア・ミラノでもっとも権威のある高校のひとつ、「アレッサンドロ・ヴォルタ高校」校長。1956年、南イタリアのカラブリア州・クロトーネ生まれ。25歳のときに大学の哲学科を卒業、ミラノの高校で26年間、文学と歴史の教師を務める。 その後、ロンバルディア州とピエモンテ州で6年間校長を務め、2013年9月から現職。26歳になる娘のジュリアはオランダ在住。趣味は旅行、読書、そして映画館へ行くこと(週に3回も!)。犬が大好き。


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